7 / 60
第3話② 正直だったお兄ちゃん、今は嘘つきなんですか?
しおりを挟むシルヴァが出ていったベッドの中で、私は一人悶々と考えて過ごしていた。
(子どもの頃とはやっぱり違う……お兄ちゃんも大人の男性になってしまった……)
優しく接してくれた少年時代のシルヴァのことを思い出す。
(……本当の夫婦なら当然の行為だけど、私達は偽物の夫婦……クラーケもさっきみたいなことをしたから、セピア公爵令嬢に赤ちゃんが出来たわけで……やっぱり男の人は皆考えることは一緒なんだわ……)
騎士学校に行ってから、シルヴァがどう過ごしていたのかは知らない。
シルヴァもクラーケのように、特定の女性以外にも手を出したりしていたのだろうか。
(爵位だけじゃなくて身体も目当てだった……? だけど、シルヴァお兄ちゃん本人もはっきり言ってたじゃない、爵位目当てだって……)
偽の夫婦だということもあり、何か本当で何が嘘なのかが分からなくなってくる。
(昔は、嘘をつくような人じゃなかった……だけど、お兄ちゃんだって大人になって嘘をつく人間になったのかもしれない)
なんだかよく分からなくなって胸が苦しい。
涙がとめどなく溢れてくる。
その時――。
「リモーネ……!」
部屋の扉が勢いよく開かれた。
扉の方を見ると、精悍な顔立ちをした青年シルヴァが立っている。
彼はそれ以上は部屋には入ってこずに、私に話しかけてきた。
「リモーネ、言い訳がましいとは思うかもしれないが……俺は相手と繋がる行為は、好いた者同士がやるべきだと思っている」
彼が息を深く吸った。
「いくら寝ぼけてたとは言え、誰にでもああいうことを俺はしない……相手は間違えない……」
シルヴァが続ける。
「お前から腕に触れられて……夜目にも分かるぐらい、恥じらうお前を見て我慢が出来なくなったんだ……だが、相手に子ができて婚約破棄したお前相手に、俺が短慮だった……それだけだ」
すごく真剣な口調でそれだけ言うと、シルヴァは部屋から立ち去った。
また部屋に一人になった私はぽつりと呟いた。
「シルヴァお兄ちゃん……やっぱり嘘つきになってる……」
『お前から腕に触れられて』と、確かに彼はそう言っていた。
「寝ぼけてるなんて、嘘じゃない……」
それはつまり最初から彼は目を覚ましていたということだ――。
『……俺は相手と繋がる行為は、好いた者同士がやるべきだと思っている』
「シルヴァお兄ちゃんは何を考えてるの……?」
その夜は、なんだか胸がどきどき苦しくて仕方がなくて、結局一睡もとることが出来なかったのだった――。
10
お気に入りに追加
1,901
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました
春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】妻至上主義
Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。
この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。
本編11話+番外編数話
[作者よりご挨拶]
未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。
現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。
お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。
(╥﹏╥)
お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる