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大牙side
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それ以来、とにかく他の女性とは距離をとった。
兎羽まゆりにどうにか自分のことを見てもらいたかった。
(自分でも分からないけど……俺のことを叱ってくれるのは、後にも先にもあの子だけだ)
どうにか振り向かせようとしている内に、自分が兎羽まゆりに抱いている気持ちが『特別な好き』だと気づく。
自分の気持ちが本物だって伝えるのにだいぶ苦戦したけれど、まゆりに想いが届いて交際できるようになった日には天にも昇る気持ちだったのを覚えている。
彼女と過ごす毎日はとても幸せで満ちたりていて、愛情に飢えて渇いていた大牙をどんどん潤していった。
(大好きな女の子と手を繋ぐのはこんなにも幸せだったんだな……)
まゆりがそばにいてニコニコ笑ってくれるのが大牙は好きだった。
だけど――
事件は起きた。
どうやら龍ヶ崎組と敵対している組が、まゆりを誘拐しようとしているらしい。
『まゆりちゃんを誘拐……!?』
いてもたってもいられなくなった大牙は父に相談した。
『大牙、お前の母親の件もある。お前の手で守れるようになってからじゃないと、このまま付き合うのは反対だ』
『だったら、俺が自分であいつらを倒したらいいんだろう?』
『お前が正気なまま相手に勝てたら――許してやろう』
組員の何人かに協力してもらって誘拐を企てている敵対する勢力にのり込んだ。抗争自体は初めてだったが敵を圧倒するのはわりと簡単で、自分の大事な人に手を出そうとした奴への増悪を抑えきれず――正気に戻った時には、敵の頭を半殺しになるまで追い込んでしまっていた。
血濡れた手を見た時、漠然ともう愛する彼女の隣には戻れないかもしれないと思った。
(今の俺じゃあ、すぐに周りが見えなくなって自分も他人も傷つけてしまう。まゆりちゃんに相応しくない……)
これまでは唯の高校生でいられたが――
どうしようもなく自分は裏稼業の血を継いでいるのだとまざまざと理解した。
同時に、自分の中に眠る凶暴な獣のような本性に気付いてしまって――自分自身でゾッとしてしまった。
(もう昨日まで――まゆりちゃんと楽しく手を繋いでいた頃の自分には戻れない……)
彼女に何かあればと不安になって正気を失った。
今日は良かったかもしれないが――この先、自我を失った自分が彼女を追い詰めたり喰い殺してしまいそうな未来が視えてしまった。
手洗いして血は流れてしまったはずなのに、自分の手にこびりついたみたいで、なんだかすごく自分で自分が嫌になった。
結局――父との賭けに負けたこともあり、今の自分では彼女に相応しくないと判断して――本当は嫌だったけれど、自分から別れを告げた。
まゆりの寂しそうな表情がどうしても頭の中から消えてはくれなかった。
兎羽まゆりにどうにか自分のことを見てもらいたかった。
(自分でも分からないけど……俺のことを叱ってくれるのは、後にも先にもあの子だけだ)
どうにか振り向かせようとしている内に、自分が兎羽まゆりに抱いている気持ちが『特別な好き』だと気づく。
自分の気持ちが本物だって伝えるのにだいぶ苦戦したけれど、まゆりに想いが届いて交際できるようになった日には天にも昇る気持ちだったのを覚えている。
彼女と過ごす毎日はとても幸せで満ちたりていて、愛情に飢えて渇いていた大牙をどんどん潤していった。
(大好きな女の子と手を繋ぐのはこんなにも幸せだったんだな……)
まゆりがそばにいてニコニコ笑ってくれるのが大牙は好きだった。
だけど――
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どうやら龍ヶ崎組と敵対している組が、まゆりを誘拐しようとしているらしい。
『まゆりちゃんを誘拐……!?』
いてもたってもいられなくなった大牙は父に相談した。
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『だったら、俺が自分であいつらを倒したらいいんだろう?』
『お前が正気なまま相手に勝てたら――許してやろう』
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どうしようもなく自分は裏稼業の血を継いでいるのだとまざまざと理解した。
同時に、自分の中に眠る凶暴な獣のような本性に気付いてしまって――自分自身でゾッとしてしまった。
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結局――父との賭けに負けたこともあり、今の自分では彼女に相応しくないと判断して――本当は嫌だったけれど、自分から別れを告げた。
まゆりの寂しそうな表情がどうしても頭の中から消えてはくれなかった。
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