【R18】奪いにきたのは獣な元カレ 昼は教師で夜はヤクザに豹変する若頭の十年愛

おうぎまちこ(あきたこまち)

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大牙side

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『ねえねえ、兎羽まゆりさん、俺さ、君のことが好きなんだよね』

『え?』

 そう――男女問わずに自分に構ってくれる類の人間たちは好きだ。
 いわゆる男女交際における『好き』とは違うかもしれないが。
 だから、嘘偽りのない『好き』をまゆりにも伝えてみることにした。

『体調悪いやつ見たら、保健室に連れて行ってあげるしさ。授業も真面目に受けてるし、クラスの話し合いなんかの時にもさ、言葉を選んで皆がちゃんと言えるように配慮したり優しいなって』

『それは誰かがやらなきゃいけないことだから……』

『あとさ――俺が欠席した時のノートのコピーとったりしてくれてたでしょう? 真面目で優しいなって。結構ドキドキしたんだよね。だからさ、試しに付き合ってみない?』

 大牙の方からここまで女性に色々言うのも初めてだ。
 もちろん色よい返事が返ってくるに違いない。
 そう思ってたけれど――

『龍ヶ崎くん、告白してくれて嬉しい。私も同級生として好きだよ』

『うん!』

 ――成功だ。
 このまま付き合って他の女性達みたいに手を繋いだり優しい言葉をかけたりすれば――
 この女も――

『だけど、私、まだそんなに龍ヶ崎くんのこと知らないし、特別な感情を抱いているわけじゃないから、ごめんね、同級生の好きっていう気持ちだけじゃ付き合ったりはできない』

『え?』

 予想外の返事だった。
 心臓が妙な音を立てる。何者かにぎゅうっと何度も握りつぶされているような感覚があった。

『兎羽さんは……同級生の好きとかで……試しに付き合ったりとか……しないの?』

『そうやって付き合う人もいると思うけど、私はそういう軽い気持ちで誰かと交際したくないんだ、ごめんね』

『あ……』

『その……余計なお世話かもしれないけど……龍ヶ崎くん、初対面の女子でもすぐに受け入れてしまうところがあるでしょう? わりと手を繋いだりとか気軽に……』

 兎羽まゆりが伏し目がちになった。

(俺が他の女性にどう接してるのか、この子はちゃんと見てる……)

 ドクンドクンドクン。
 心臓がとにかくうるさい。
 拳をぎゅっと握る。掌にじわじわと汗が滲む。

『龍ヶ崎くんのことを否定するわけじゃないんだけど……近づいてくる人、皆が良い人かどうかは分からないから。龍ヶ崎くんも、もっと自分のことを大事にしてくれる人にそういうことはして、もっと自分のことを大切にした方が良いよ。それじゃあ』

 それだけ言うと兎羽まゆりは去って行った。

『はは……』

 残された大牙からは乾いた笑いが漏れ出た。
 そっと片手で両眼を覆う。
 

『自分を大事に、か……』


 今まで誰にも言われてこなかった言葉が胸に響いて――
 目頭が熱くなって、その場から動けなくなった。

 大牙にとって――生まれて初めて誰かに告白してフラれた日。

 だけど、どうしようもなく兎羽まゆりが大牙の心を占めるようになった日となったのだった。

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