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本編
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しおりを挟む寒空の下、高校の校門前。
新任教師として現れたのは、高校時代の元カレの大牙くんだった。
もしかして勘違い?
何度か目をパチパチさせてしまった。だけど、やっぱり気のせいじゃないみたい。
「……大牙くん……」
思わずポツリと彼の名前を呼んでしまった。
無意識に気持ちが十年前に戻っちゃったみたい。もう付き合っていたのは随分昔の話で……大牙くんは、もしかして自分のことなど忘れてしまっているかもしれない。なのに、うっかり彼の名前を親し気に呼んでしまった。後悔先に立たずってこういうことをいうのかな? 私は咄嗟に俯いてしまった。
だけど――
ずっとずっと大好きで忘れられなかった大牙くん。
もう大人になったし教師になったんだから、自分の気持ちぐらいしっかり制御しなきゃって思うのに……
大人になった彼のことを見たくて、地面に目を向けつつもチラリと相手の様子を見てしまった。
(やっぱり間違いない、本人だわ……)
身長もかなり伸びててモデルさんみたいになっているけれど間違いない。年上の人からも年下の人からも好かれそうな、まるで太陽みたいな笑顔を浮かべていて、学生時代からちっとも変わってない。
そうそう、昔はちょっとだけだらしないところもあったけれど、大人になった今となっては、スーツをびしっと着こなして……
着こなして……?
ん?
んん?
着こなしてなくない?
びしっとは決まっていなかった。
第二ボタンまで空いてるし、高級そうなネクタイは全く綺麗に結べてない。スーツも前はだけてますけど……社会人のマナーみたいなのがあるじゃない? そういうの全く気にしてない感じで、ちょっと心配になるんだけど……
学生時代、そう言われれば私がいつもタイを結び直してあげてたんだっけ?
仮にも新任教師でそれはなくない? こう、もっときちんと襟まで詰めないと、私はともかくとして他の先生たちに怒られちゃうよ。
相手の顔を直視するのが怖かったはずなのに、おせっかいな気持ちの方が強くなってきてしまって――
「失礼します」
「なになに? わわっ……!」
反射で、ちょっとだけ距離を縮めて、ボタンを留めて彼のネクタイをそっと結んで上げた。
「これで良し」
なんだろう、昔からそうだけれど柑橘系の良い香りがする。
高校時代に付き合ってたせいもあって、何気なく近づいてしまったけれど、かなりお節介がすぎたかも……!
はっと冷静になって、その場を離れる。
「ごめんなさい……!」
自分のことを心の中でなじる。
バカバカバカすぎる。
もう付き合ってるわけでもなんでもないのに……!
「あのさ……」
ちょうど大牙君がこちらに向かって何か喋りかけてこようとした、その時――
「兎羽先生! ああ、龍ヶ崎先生もいたのか!」
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