【R18】嫌いになりたい、だけなのに

おうぎまちこ(あきたこまち)

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ケンダルside

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 それ以来、ケンダルはオデッセイの護衛に徹した。
 そばで護衛についても、極力本人とは関わらないようにした。
 とはいえ、寂しそうにしているオデッセイを放ってはおけず……とにかく傍観者に徹した。

(喋ってもっと好きになって、苦しくなりたくない……)

 ケンダルは、愛する女性の護衛騎士になってしまった自身のことを呪うようにさえなっていた。
 オデッセイとの恋路が叶うことはない。

(もういっそ、オデッセイに派手に嫌われたいな……)

 どんどん拗らせてしまい、そんな卑屈なことを考えるようになってきた。

 ちょうどその頃、「アーサー様はとにかく堅いから、ケンダル様の方が親しみやすい」と言って、令嬢や侍女たちがよく話かけてきた。
 他の女性達とお喋りするのは、オデッセイへの叶わぬ思いを誤魔化すのには、ちょうど良かった。

「オデッセイ様に怒られちゃうかしら?」

「別に……オデッセイとは何もないさ」

 拗らせきったケンダルは、オデッセイにどうしようもなく嫌われたかった。
 オデッセイはケンダルが女性と喋るのをどうしてだか嫌っていたから……
 もういっそ嫌われたくて、他の令嬢たちと仲睦まじく過ごすことを選んだ。
 オデッセイに嫌われれば、楽になれると信じていた……

(何やらせても二番手の俺には、このぐらいがちょうど良い)

 だけど、一方で邪な思考が首をもたげてくる。

 ……自分が傷ついた分、彼女も傷ついてしまえば良い。

 そんな愚かな感情が頭を占め始めた。
 そんなことをしたって、オデッセイからの愛情が得られるわけでもないのに……
 そもそも、彼女はアーサーのことを愛しているのだから、ケンダルがどうなろうと知ったこっちゃないのかもしれない……

 オデッセイへの想いに気付いてからは、ずっとそんな卑屈な堂々巡りを繰り返し続けた。

(ダメだ、こんな卑屈な俺は……俺なんかじゃない……)

 オデッセイのことが好きな自分は、こんなにも愚かな想いを抱く、醜悪な俗物だったのだ。


「オデッセイのことを、嫌いになれたら、楽なのに……」


 嫌いになろう、嫌われよう、嫌いになろう、嫌いに……
 嫌いになりたいだけなのに……
 だけど、成長して美しくなっていくオデッセイを見るたびに、どんどん想いは募って拗れていく一方で……

「嫌いになりたいだけなのにな……」

 どうして、嫌いになろうとすればするほどに、オデッセイのことでいっぱいになってしまうのだろう。
 こんなにも苦しいのに……
 苦しい気持ちなんて味わいたくなんかないのに……

 もういっそ犯して手籠めにすれば良いんじゃないか?

 そんな考えまで浮かんでくる始末で……

(このままじゃ、きっとオデッセイを不幸にしてしまう)

 ケンダルは、自分自身ではどうしようもなくなってしまって、荒ぶる獣のような気持ちをどうにかしないといけないと、思い立った。

(そうだ、アーサーの妹みたいな魔術師のリーリアちゃん……! なんか親父さんが惚れ薬だとか、人の感情をどうにかしようとする薬を開発しようとしてたはずだ……!)

 そこで、アーサーの幼馴染魔術師であるリーリアに、王城で出会った際に、思い切って依頼をすることにした。
 リーリアは、アーサーがなかなか外に出さないと評判の令嬢で、オデッセイとは違って派手さはないが愛らしい女性だ。

「ねえ、リーリアちゃんに頼みがあるんだけど……」

「ケンダルさん、え? 惚れ薬の逆……ですか?」

「そうそう、どうしても……嫌いになりたい奴がいて、さ……もしよければ、惚れ薬と一緒に作ってもらいたいんだ」
 
 苦しくて苦しくて……
 もういっそ、何かに頼って、オデッセイのことを『嫌い』になってしまえ……

 だが、この時、ケンダルがリーリアに逆惚れ薬を頼んだことを契機に、ケンダルとリーリアが婚約してはどうかという話が浮上してしまった。
 そうして、アーサーとオデッセイの婚約話も濃厚になったのだった。


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