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ケンダルside
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しおりを挟む騎士学校卒業後の数年間、念願のオデッセイの護衛騎士になれて、最初の頃は張り切って過ごしていた。
遊び相手だったのが、護衛騎士になっただけと言われればそうだけど、
アーサーの活躍は耳にしたけれど、遠く離れた位置にいれば、正直気にならない。
アーサーへの嫉妬なんて忘れて幸せな毎日を送っていたのだ。
だけど、ちょうど三年が経った頃のこと。
ケンダルはたまたま、王城内で国王陛下と大臣の会話を耳にしてしまった。
どうやらオデッセイの結婚相手についてのようだ。
(オデッセイが結婚……)
ずっとそばにいるのが当たり前だったし、まだまだ自分たちは子どもだと思っていた節もあって、そんなこと気にしたことはなかった。
我が国は十五で成人を迎えるから、ケンダルももう結婚できるし、見合い話や令嬢たちに色々と言い寄られることはあったものの、他人ごとのような気がして、全て断ってきていたのだった。
(オデッセイの結婚相手……)
ドクンドクンドクン。
気になって仕方がない。
柱の影から話を聞いて、ドキドキしながら、固唾を呑んで見守った。
(陛下は俺のことを気に入ってくれている……小さい頃は、オデッセイと俺が婚約してはどうかという話だってあったし……)
だから、もしかしたら、オデッセイの夫候補が……
(俺だったら……)
理由は分からない。
だけど、胸が歓喜で震える。
きゅっと拳を握って、陛下の答えを待つ。
だが……
「国一番で強くなるだろうアーサーに、オデッセイの夫になってもらえれば……」
アーサー。
陛下がオデッセイの夫にと望んだのは、護衛騎士のケンダルではなく、華々しい活躍を見せるアーサーだったのだ。
(オデッセイの結婚相手は……俺じゃない……)
衝撃で喉がひりつく。
ズンと胸が重く苦しくなった。
焦燥で指先が戦慄く。
目の前の焦点が合わない。
(陛下がそんなことを言うなんて……)
……ケンダルは絶望した。
「お互いにちょうど良い。だから、どうか娘のそばにいて遊び相手になって欲しい」とケンダルを指名してきた陛下。
ケンダルは陛下に気に入られていて、オデッセイの婚約者にと話が浮上していることだってあった。
だというのに、陛下は、オデッセイの婚約者にはアーサーを望んでいるのだ。
とにかくショックだった。
なんだか周りの全てが敵に感じた。
誰も自分のことなど気に留めているはずが、そもそもなかったのに。
自分自身が否定されたような気がした。
これまでの全てが否定されたような、そんな気が……
信じられない想いを抱えたまま、崩れそうな気持ちをどうにか保ちながら、ケンダルはオデッセイの元へと向かった。
(オデッセイが……アーサーのことを好きじゃなければ、それで良いじゃないか……)
彼女本人の口から、「アーサーのことは好きではありません」、そんな風に聞きたかった。
そうしたら、普段の前向きな自分に戻れるに違いない。
胸が潰れそうな想いを抱えながらケンダルは廊下を駆ける。
すると、ちょうど廊下の端に、目的のオデッセイの姿があるではないか。
「オデッ……」
だが、彼女のそばには何者かが立っていた。
思わずケンダルは廊下の柱のそばで足を止める。
今日の自分は隠れてばかりだ。
「あれは……」
オデッセイのそばにいる人物の正体は……
金色のサラサラの髪に、凛々しい顔立ち、恵まれた体躯の美青年。
何をやらせてもケンダルよりも一歩先を行く……
先ほど話に上がっていた……
「王都騎士団にいるはずのアーサーが、なんでわざわざ王城でオデッセイと喋ってるんだよ……」
ケンダルの心臓がおかしな音を立てはじめる。
「なんで……」
爪が肌に食い込んでじわじわと血を滲ませてきた。
けれども、痛みの上限はとっくに突破してしまって、感覚は失われてしまっている。
(オデッセイ、お前は……)
遠くに見えるオデッセイは、頬を朱に染めながらアーサーと会話を交わしている。
何を話しているのかは聞こえなかったが、オデッセイがあんなに嬉しそうに声を出して笑うなんて……
こんなにも幸せそうに微笑むオデッセイは、見たことがない気さえしてくる。
ケンダルの胸の内に焦燥が駆けたのだった。
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