【R18】嫌いになりたい、だけなのに

おうぎまちこ(あきたこまち)

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ケンダルside

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 騎士学校卒業後の数年間、念願のオデッセイの護衛騎士になれて、最初の頃は張り切って過ごしていた。
 遊び相手だったのが、護衛騎士になっただけと言われればそうだけど、
 アーサーの活躍は耳にしたけれど、遠く離れた位置にいれば、正直気にならない。
 アーサーへの嫉妬なんて忘れて幸せな毎日を送っていたのだ。


 だけど、ちょうど三年が経った頃のこと。

 ケンダルはたまたま、王城内で国王陛下と大臣の会話を耳にしてしまった。
 どうやらオデッセイの結婚相手についてのようだ。

(オデッセイが結婚……)

 ずっとそばにいるのが当たり前だったし、まだまだ自分たちは子どもだと思っていた節もあって、そんなこと気にしたことはなかった。
 我が国は十五で成人を迎えるから、ケンダルももう結婚できるし、見合い話や令嬢たちに色々と言い寄られることはあったものの、他人ごとのような気がして、全て断ってきていたのだった。

(オデッセイの結婚相手……)

 ドクンドクンドクン。
 気になって仕方がない。
 柱の影から話を聞いて、ドキドキしながら、固唾を呑んで見守った。

(陛下は俺のことを気に入ってくれている……小さい頃は、オデッセイと俺が婚約してはどうかという話だってあったし……)

 だから、もしかしたら、オデッセイの夫候補が……

(俺だったら……)

 理由は分からない。
 だけど、胸が歓喜で震える。
 きゅっと拳を握って、陛下の答えを待つ。
 
 だが……

「国一番で強くなるだろうアーサーに、オデッセイの夫になってもらえれば……」

 アーサー。

 陛下がオデッセイの夫にと望んだのは、護衛騎士のケンダルではなく、華々しい活躍を見せるアーサーだったのだ。

(オデッセイの結婚相手は……俺じゃない……)

 衝撃で喉がひりつく。
 ズンと胸が重く苦しくなった。
 焦燥で指先が戦慄く。
 目の前の焦点が合わない。

(陛下がそんなことを言うなんて……)

 ……ケンダルは絶望した。

「お互いにちょうど良い。だから、どうか娘のそばにいて遊び相手になって欲しい」とケンダルを指名してきた陛下。
 ケンダルは陛下に気に入られていて、オデッセイの婚約者にと話が浮上していることだってあった。
 だというのに、陛下は、オデッセイの婚約者にはアーサーを望んでいるのだ。

 とにかくショックだった。

 なんだか周りの全てが敵に感じた。
 誰も自分のことなど気に留めているはずが、そもそもなかったのに。
 自分自身が否定されたような気がした。
 これまでの全てが否定されたような、そんな気が……

 信じられない想いを抱えたまま、崩れそうな気持ちをどうにか保ちながら、ケンダルはオデッセイの元へと向かった。

(オデッセイが……アーサーのことを好きじゃなければ、それで良いじゃないか……)

 彼女本人の口から、「アーサーのことは好きではありません」、そんな風に聞きたかった。
 そうしたら、普段の前向きな自分に戻れるに違いない。
 胸が潰れそうな想いを抱えながらケンダルは廊下を駆ける。
 すると、ちょうど廊下の端に、目的のオデッセイの姿があるではないか。

「オデッ……」

 だが、彼女のそばには何者かが立っていた。
 思わずケンダルは廊下の柱のそばで足を止める。
 今日の自分は隠れてばかりだ。

「あれは……」

 オデッセイのそばにいる人物の正体は……
 金色のサラサラの髪に、凛々しい顔立ち、恵まれた体躯の美青年。
 何をやらせてもケンダルよりも一歩先を行く……
 先ほど話に上がっていた……

「王都騎士団にいるはずのアーサーが、なんでわざわざ王城でオデッセイと喋ってるんだよ……」

 ケンダルの心臓がおかしな音を立てはじめる。

「なんで……」

 爪が肌に食い込んでじわじわと血を滲ませてきた。
 けれども、痛みの上限はとっくに突破してしまって、感覚は失われてしまっている。

(オデッセイ、お前は……)

 遠くに見えるオデッセイは、頬を朱に染めながらアーサーと会話を交わしている。
 何を話しているのかは聞こえなかったが、オデッセイがあんなに嬉しそうに声を出して笑うなんて……
 こんなにも幸せそうに微笑むオデッセイは、見たことがない気さえしてくる。
 ケンダルの胸の内に焦燥が駆けたのだった。

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