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ケンダルside
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しおりを挟むケンダルの護衛対象であるオデッセイは、周囲の皆に優しくて気配りが出来て、ものすごく賢くて優秀な少女だった。
齢七歳にして、魔術理論は院生レベルの内容を暗記しており、高位魔術は長文だが何個も暗唱していたし、何も観ずに術式を描くのだってお手のもの、魔術衛生学の教授と対談だってする。
「オデッセイはすごい……! 普通の七歳じゃ、こんな難しい話できないぜ! 俺と一緒で才能に恵まれてるんだろうな!」
てっきり、そんな風に思っていたケンダルだったのだが……
ある日のこと。
自室のすみっこに隠れて、ぶつぶつ言っているオデッセイの姿を発見した。
「『愛しき炎よ、この身に焦がれん、我が名は焔』にょっ……!! くぎゅ、舌を噛んで痛いですわ……」
(なん、だと……!?)
そう、オデッセイは元から何でもできるのではなく……
可愛くて頭も良くて気配りのできる女性になろうと、ものすごく努力をするタイプの美少女だったのだ……!
ケンダルは空気を読まずにオデッセイに声をかけた。
「おい、オデッセイ」
「きゃあっ、ケンダル、今のまさか見ていましたの……!?」
努力している姿を見られて、オデッセイは頬を朱に染めていた。
「なんで、そんな舌噛んで痛いのに、練習するんだよ? ……俺と一緒で誰かにモテたいのか?」
だが、オデッセイからの返事は違った。
「ケンダル、そんなの決まっているでしょう?」
「なんだよ?」
「残念ながら、私は美貌には恵まれましたが、ケンダルのように元から何でもできるタイプではありませんでした。ありきたりな表現ですが、白鳥だって水面下では必死にバタついているではありませんか。だから、私は皆に見えないところで必死に努力をするのです。さも、最初から何でもできるかのように……」
「……どうして、そこまでするんだ?」
オデッセイが、まだ小さな胸をそらすと、豪奢な巻き髪が揺れ動く。
自身を気高き薔薇のように見せようと選んだ、真紅のドレスのフリルが翻った。
そうして、揺ぎ無い瞳を宿したまま告げる。
「私はこの国の王女。皆に夢や希望を与える立場の者。ですから、元の人材がどうであれ、美しく聡明でなければならないのです」
「……っ……!」
努力をしたことがないケンダルにとっては衝撃だった。
(オデッセイはまだ子どもなのに気高い女だ……)
ケンダルはますますオデッセイの虜になってしまった。
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