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 そうして、気づけば月が南中にかかりはじめる。
 室内にはぐちゅぐちゅと水音が立ち込めていた。
 一度だけ呻き声が聞こえる。
 ケンダルが吐精したのだ。

「……っ……」

「えいっ……ああ、うまくいきませんわね……」

 オデッセイは試験管を手に落ち込んでいた。

(あれから、三回、合計四回失敗してしまっている……)

 そう、ケンダルの協力の元、何度か『特別な体液』採取に挑んでいるのだが、全て徒労に終わっていた。

「ああ……こんなに俺から搾り取ってくる女もなかなかいないな……」

 ケンダルがツンツンした髪をかき上げた。額に汗をかいている。
 オデッセイがどうしたものかと考えていると、ケンダルが先に切り出した。

「なあ、どうだ、オデッセイ? もう『逆惚れ薬』とやらを作るのは止めにしないか?」

「『逆惚れ薬』が、どうしても欲しいのです……」

「どうして、そんなにも欲しがる? 理由次第で続けてやっても良い」

 オデッセイは唇をきゅっと噛み締める。
 ……ただでさえ好きな相手。
 実は、肌を触れ合わせたことで、ますます情が移ってしまっていた。

(これ以上好きになってはダメよ……だからこそ、『逆惚れ薬』の力に頼って、ケンダルへの想いを消してしまわないと……)

 そうして、オデッセイは告げる。

「どうしても……私は貴方を嫌いになりたいのです……」

「どうしても、ね……俺も嫌われたもんだな」

 ケンダルが寂しそうに微笑むものだから、胸がきゅうっと疼いた。
 ……これ以上はダメだ。

「アーサーは五度目に採取できたという話でしたが、これ以上ケンダルに負担をかけるのは本望ではありません」

 その時、ケンダルの頬がぴくりと反応した。
 彼の碧の瞳に影が落ちる。

「ですから、もう辞めに……ケンダル……?」

 その時。

「きゃっ……!」

 オデッセイの視界が反転した。背中がベッドに沈み込んだかと思うと、ケンダルが体の上に跨ってくる。

「どうせ手に入らないんだったら……俺もお前のことを嫌いになれたら、楽だったのにな……」

 柔らかな重みを感じた後、両脚の間、ひたりと熱杭の先端が触れる。
 ちょうど雲が陰って相手の表情が視えない。

「なあ、せっかくだ、俺も『逆惚れ薬』とやらが欲しくなってきた」

「ケンダル……?」

 雲が晴れる。ケンダルの眼はまるで獲物を前にした獰猛な獣だ。

「俺も動き足りないし……そんな小さな試験管の中じゃあなくて……」

 彼女の下腹を彼の掌がゆっくりと擦った後、口の端をゆるりと吊り上げた。

「お前の体の中で受け止めてくれよ……『特別な体液』をな」

 今度はオデッセイがケンダルに組み敷かれる番になったのだ。

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