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第7章 2年後、3人は家族になった
34-5 桃花side
しおりを挟む両親が交通事故に遭った当時、桃花は小学六年生だった。
父方の祖母からの連絡を受けて、祖父母に連れられて、海沿いにある総合病院へと到着していた。
雨足がどんどん強くなってきて、とても頑丈な建物なのに、雨音が忙しなく聴こえてきていた。
祖母たちは、緊急手術や集中治療室入室のための手続きなんかをしていた。
桃花は白いウサギのぬいぐるみを大事に抱えて、待合室のソファの上に座り込んでいた。
『お父さん、お母さん……』
桃花は息が出来ないぐらいの苦しさからどうにか解放されたくて、白いウサギのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
だけど、なかなか不安は消えてはくれない。
『お父さん、お母さん……桃花のせいで……』
ちょうど近くのソファには、都内でも有名な私立の進学校の制服を着た男の人が座っていた。芸能人みたいに透き通るような美少年。もしも平時に出会えていたら、カッコイイなどと思う余裕があったのかもしれないが、桃花は両親がどうなってしまうのか不安でたまらなかった。
けれども、ふと、美少年の制服の袖が裂けていて、前腕には血が滲んでいるのを発見した。
桃花はパッと立ち上がると、彼のそばへと駆け寄った。
『お兄ちゃん、血が出てる』
『……え?』
美少年がのろのろと顔を上げる。
どことなく虚ろな瞳をしていた。
しばらくすると、ぼんやりとしたまま、のろのろと返事があった。
『ああ、本当だ』
相手の反応があまりにも鈍くて、桃花の方が慌ててしまった。
『血が止まらなかったら、死んじゃう……!』
『たいした傷じゃないよ。そのうち、止まるさ』
そうして、美少年が自嘲した。
『それに……俺なんかが助かったって社会の役にも立たない。俺が死んだ方がマシだったのに……』
なんだか儚くて崩れそうで、このまま放っておいたら、どこかに行っていなくなってしまいそうだ。
桃花はポケットに入れていたレースのハンカチを取り出すと、彼の腕に巻き付けた。
『そんなこと言わないでください。お医者さんか看護師さんを呼びますから』
桃花は近くを歩いていた看護師に声をかけると、美少年の怪我の手当てをしてもらった。
桃花は自分よりも年上の美少年の世話をしていると、両親が死ぬかもしれないという不安から、一時的にだが逃れることが出来た。
そうして、美少年の手当てが終わった後、また待合室のソファの上で二人、黙って過ごすことになった。
どちらも何も言わないでいたのだけれど……成長途中の桃花のお腹がきゅるると鳴った。
すると、美少年が彼女の方をゆっくりと振り向く。
『ああ、ほら、お菓子持ってるから、あげるよ』
桃花は美少年からもらった飴玉を口に含む。とっても甘いピーチ味で、不安と緊張が少しだけ和らいでいく。
チクタクと時計の音と外を降る雨の音が強く響く中、二人は黙って過ごす。
夜になって人気の少なくなった病院の中、なんとなくそばに誰かが――美少年がいることで、桃花はなんとなく心強く感じたのだった。
どれぐらいの時間が経っただろうか。
時刻は二十二時頃のようだ。
祖父母は桃花のそばに少しだけ帰ってきた後、医師の説明を聞きにまたどこかへと向かった。
また美少年と桃花との二人きりになった待合室に――びしょ濡れになった男の人が姿を現わしたのだった。
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