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第7章 2年後、3人は家族になった

最終話―4 総悟side 過去

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 十二年前、病院の救急外来の待合室にて。
 男子高校生時代の二階堂総悟はソファにしゃがみ込んで座っていた。
 母親代わりだった姉は死亡宣告を受けた。
 兄だと慕っていた人物が失意のまま病院を去って行くのを黙って見ていた。
 ちょうど姉ぐらいの年齢の女性が申し訳なさそうにこちらを覗いていたけれど、しばらく経ったらいなくなってしまった。
 本当なら父と一緒に葬儀の準備なんかをしなければならないのかもしれないが、総悟はその場を動くことが出来なかった。
 もちろん姉が死んでショックだったこともある。
 だけど、今この場を離れたらいけないと、当時の総悟なりに思ったのかもしれない。
 高校時代の総悟は、隣に座る小学生の女の子の姿を眺めた。
 女の子は愛らしい顔立ちをしていて、黒髪をツインテールにしていた。白いウサギのぬいぐるみを後生大事に持っている。
 小一時間ほど前に少女の祖父母が現れて――少女の両親が亡くなったと告げに来ていた。
 彼女は両親と対面した後、死後の準備があるからと、病室から退室してきたようだった。

 もうすぐ二十四時を迎える。
 総悟と少女は静かな待合室で黙って過ごしていたのだが――
 彼女が口を開いた。

『お父さん、お母さん……桃花が誕生日のお祝いしてほしいから、早く帰って来てって言ったせいで……』

 総悟は思い切って少女に声をかけることにした。

『ねえ、もしかして君、今日が誕生日なの?』

『うん、桃花、今日が誕生日なの』

 どうやら少女の名は桃花と言うらしい。

『だけど、桃花のせいで……お父さんとお母さんじゃなくて、ワガママ言う桃花の方が』

 それ以上彼女が自身を傷つける言葉を口にしないよう、総悟が遮った。

『ねえ、君がさっき俺に言ってくれたんだろう? 生まれてこなければ良かった人間なんて、この世にいるはずがない……ってさ。君が生まれてきてくれたから、きっとご両親は幸せだったと思うよ。それに、俺の遊び相手になってくれるんじゃなかったの?』

 総悟は自分に言い聞かせるように告げた。

『だからさ、君も生きてたら、きっとそれだけで価値のある人間になれるよ。いいや、俺と一緒になろうよ。生きてるだけで価値があるんだろう?』

 桃花という少女の瞳が潤んだ。
 その時、彼女がさっと白いウサギのぬいぐるみを掲げた。

『これ、桃花が大好きなヒーローの獅童くん。獅童君はカッコいいんだ。いつでも強いんだよ。だから、桃花じゃなくて、桃花の中にいる獅童君がお兄ちゃんを助けたの』

『ふうん、俺も小学生の時に見てたよ、かっこよかったよな。好きなんだ?』

『桃は幼稚園生の時に見たよ! 桃は獅童君のぬいぐるみをずっと集めてるんだ! 今年もお母さんとお父さんからの誕生日プレゼント、獅童君だと思ってたのにな』

 両親のことを思い出したのか、桃花の瞳から涙が零れ落ちた。

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