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第6章 2年後、3人で家族になる
26-4
しおりを挟む「桃花ちゃんに似て素直な良い子に育っているみたいだね」
総悟が口の端をニヤリと吊り上げた。
「二階堂社長、卑怯です……!」
「卑怯も何もさ、俺は自分が持てる全てを使うことにしたんだ」
「持てる全て……?」
すると、総悟の顔が喜悦に歪んだ。
「そう――俺は決めたんだ。君を……いいや、君たちを手に入れるためなら何だってするってね」
桃花の背筋にゾクゾクした感覚が駆け上がる。久しぶりに肉食獣に追い込まれた小動物のような気持ちにさせられた。
「そんなこと言われたって困ります!」
桃花がツンとそっぽを向いたが、総悟が面白そうに眺めてくるだけだった。
(二年前に揶揄われてた時みたいで、なんだか調子が狂ってしまう)
それにしたって……総悟はしばらく経っても車の扉に手をかけたまま、獅童に触れようとはしない。
(私たちを車で連れて行くって話しているのに、獅童にシートベルトを装着しようとしていない)
立ち往生する総悟の姿を見て、桃花はピンと閃く。
(もしかして、総悟さん、ベルトの嵌め方が分からないのかしら? それとも獅童自体に触れることができないの……?)
理解した桃花は、総悟の身体を押しのけて、獅童を救出に向かう。
「こまち、こまち」
しかしながら、当の獅童は限定車両に夢中だ。
「さあ、降りましょう、獅童。あやしいおじさんの車に乗ったらダメよ」
「あやしいおじさんって俺のこと!?」
総悟の悲痛な叫びは無視して、桃花は獅童を抱き抱えようとしたのだが……
「しどう、あそぶの!」
「そんな……!」
獅童が離れてくれなかった。
勝ち誇った顔をした総悟に促され、桃花は獅童にベルトを装着すると、悔しい思いを抱えたまま助手席に座ることになったのだった。
***
車内では獅童がきゃっきゃっとはしゃぐ声が響いている。
一方で、総悟と桃花の二人は黙って過ごしていた。
静かなのに耐えられず、彼女は思い切って声をかける。
「二階堂社長、以前も母子を救急車に誘導してやっていたことがありましたけど、やっぱり子どもが嫌いなわけじゃないんですね」
桃花に話し掛けられたからか、総悟がふっと微笑んだ。
「まあ、嫌いじゃないんだけど、そんなに子どもは得意な方じゃないかな? 特に自分の子どもって考えたら、どんな風に接して良いかが分からない。結構まだ気持ちは複雑なのが本音」
「そうなんですね」
元々子どもが欲しくないと言っていた割には、かなり頑張った方だろう。
「そういえば、どちらに向かわれているんですか?」
「ああ、そういえば言ってなかったね。もう着くよ」
「え? ここって」
到着したのは、閑静な住宅街の外れにある一際巨大な豪邸の前。
ぽかんと口を開けたままの桃花に向かって、総悟がイタズラを思いついた少年のように微笑んだ。
「そう、俺の実家。これから君の義実家になる場所だよ」
表札には――豪華な筆文字で「二階堂」と記されていたのだった。
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