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第7章 2年後、3人は家族になった

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「ご両親を事故で亡くされても、他の人のことを思いやれる余裕がある。あなたの両親を死なせた相手のことだって、決して責めることはなかった」

 阪子は、さも昔の桃花のことを見たことがあるかのように語り続けた。

「きっと亡くなったご両親や、ご存命のご家族から優しく育てられたのでしょうね。二階堂社長や他の人たちにだって、きっと愛されて生きてきたんでしょう。家族にも愛されずに育って、大人になっても愛する男性にさえ相手にされない私とは違う」

 どこか毒を孕んだような重たい声音。桃花の背筋にゾクリとした感覚が駆ける。

「梅小路さん、長く引き留めてしまいましたね、ごめんなさい。それでは」

 そうして、ゆらゆらとどこかに行こうとする阪子の背に向かって、桃花は声をかける。

「京橋さん、着かぬことをお聞きしますが、お相手の男性の名前は……何というのですか?」

 すると、憔悴しきった表情で阪子がこちらを振り返った。

「嵯峨野さん」

 桃花の脳裏にその名の男の顔が過る。

(あ……まさか……)

 ざわざわと胸騒ぎがして落ち着かない。
 二年前、『二階堂総悟には想い人がいる』と、桃花に嘘を吹き込んだ人の良さそうな顔をした男性。


「嵯峨野武雄さんです」


 阪子の声はとてもか細く、風がそのまま彼女も一緒にどこかに攫っていってしまいそうだった。

(あの人は……)

 桃花の脳裏に、二階堂商事の近くの駐車場で交わした嵯峨野武雄との会話が浮かんでくる。
 当時の桃花は何に縋れば良いかも分からなかったし、総悟への疑念も高まっていた。そのこともあり、あの時かけられた言葉を鵜呑みにしかねないほどに、判断力が低下していたし、嵯峨野の言葉はまるで真実のように聞こえてしまっていたのだ。

(私がやらないといけなかったのは、見知らぬ男の嘘に騙されることじゃなくて、ちゃんと総悟さんと向き合うことだった)

 どうして、総悟がそんなにも子どもを欲していないのか。
 ちゃんと向き合うべきは、そこだったはずなのに……
 だけど、桃花は総悟と向き合うことから逃げてしまったのだ。

(嵯峨野社長が二階堂商事に何か仕掛けているという話だった。今からでも遅くないわ。京橋さんと接触している人物が嵯峨野社長だということと、二年前の嵯峨野社長と私の会話を総悟さんに教えなきゃ……会社を守るための助けになれるかもしれない)

「獅童、急いでママの会社に向かいましょう。パパを助けないといけないわ」

 桃花が立ち上がり、砂場にいる獅童のことをぎゅっと抱っこした、ちょうどその時。

「その必要はありませんよ、梅小路桃花さん」

 突如として背後から声を掛けられ、桃花の身体がびくりと跳ね上がる。
 恐る恐る後ろを振り返ると、そこに立っていたのは……

「嵯峨野社長」

 総悟の取引先の嵯峨野商事の社長。阪子の元交際相手だという、嵯峨野武雄その人だった。

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