119 / 220
第5章 2年後、2人の子ども
24-4
しおりを挟む
「俺なんかよりも……付き合ってもいない赤の他人の子どもを産みたかったの?」
やはりというべきか……
(総悟さんは自身の子どもだとは、欠片も思っていないみたいね)
総悟の瞳はどこか虚ろだった。
ミシリと音が聞こえて、桃花が視線を移す。彼の手のスマホが軋んだ音だった。
「桃花ちゃんがそこまで自分の子どもが欲しいだなんて思ってなかった」
「そうですか」
桃花はどうにかこの場を切り抜けたかった。
とりあえず獅童の顔を総悟には見せないように気を配る。
総悟の瞳がまるで湖面のように揺れ動いていたが、くしゃりと顔が歪んだ。
「そうか、だったら俺じゃあ、役者不足だったわけだ。子どもの父親になれない俺なんかじゃ……」
「総悟さん……」
傷ついたような表情を浮かべる総悟に対して、桃花は何か声をかけた方が良いのか迷ってしまう。
(信じてもらえるか分からない。だけど、ちゃんと総悟さんの子どもだって伝えるべき? でもまだ私の推測が全て正しいかどうかわからない。だとしたら……獅童に対してどんな反応をするかが不透明だわ。もう少し情報を開示するのに慎重になった方が良いかもしれない)
桃花は心を鬼にする。
その時。
「まあま! おっき!」
なんと、獅童が目を覚ました。
瞳をパチパチさせると、周囲をきょろきょろと見回す。
「獅童……!」
「そと!」
そうして、獅童がくるりと身体を捻らせると、桃花と対峙する総悟の顔を見た。
同じ翡翠色同士の瞳。
総悟と獅童の視線が絡みあう。
「その子、は……」
総悟が瞠目すると同時に瞳に光が戻り、忙しなく揺れ動く。
(あ……)
父子の予期せぬ対面に、桃花の心も千々に乱れる。
総悟が戦慄きながら独り言ちた。
「嘘、だろう……? なんで……?」
すると、総悟が一度大きく深呼吸をして、桃花のことをまっすぐに見つめた。
「ねえ、桃花ちゃんは今、その子と二人暮らしなの?」
「はい、そうですが……」
彼の眼差しが強くなる。
「だったら、君にお願いがある」
「なんでしょうか……?」
「その子の父親が誰か教えてほしい」
「……っ……それは……」
総悟が桃花のことをまっすぐに見据えてくる。
「君の性格上、ゆきずりの男の子どもを妊娠するとは思えない。その子は」
「……っ……」
総悟に言い当てられそうで、桃花に衝撃が走る。
全身が震えて戦きはじめ、獅童が不思議そうに顔を覗いてきた。
(もういっそ、ここで伝えてしまう……?)
真実を告げれば、きっと楽になるだろう。
総悟と竹芝の二年前のやり取りが脳裏浮かぶ。
『だけど、俺は……子どもは必要ないと思ってる。大事なものを失うぐらいなら……最初から子どもなんて必要ない……欲しくないんだよ』
ドクンドクンドクンドクン。
心臓の音がうるさくて周囲の雑踏の音が聴こえなくなっていく。
やはりというべきか……
(総悟さんは自身の子どもだとは、欠片も思っていないみたいね)
総悟の瞳はどこか虚ろだった。
ミシリと音が聞こえて、桃花が視線を移す。彼の手のスマホが軋んだ音だった。
「桃花ちゃんがそこまで自分の子どもが欲しいだなんて思ってなかった」
「そうですか」
桃花はどうにかこの場を切り抜けたかった。
とりあえず獅童の顔を総悟には見せないように気を配る。
総悟の瞳がまるで湖面のように揺れ動いていたが、くしゃりと顔が歪んだ。
「そうか、だったら俺じゃあ、役者不足だったわけだ。子どもの父親になれない俺なんかじゃ……」
「総悟さん……」
傷ついたような表情を浮かべる総悟に対して、桃花は何か声をかけた方が良いのか迷ってしまう。
(信じてもらえるか分からない。だけど、ちゃんと総悟さんの子どもだって伝えるべき? でもまだ私の推測が全て正しいかどうかわからない。だとしたら……獅童に対してどんな反応をするかが不透明だわ。もう少し情報を開示するのに慎重になった方が良いかもしれない)
桃花は心を鬼にする。
その時。
「まあま! おっき!」
なんと、獅童が目を覚ました。
瞳をパチパチさせると、周囲をきょろきょろと見回す。
「獅童……!」
「そと!」
そうして、獅童がくるりと身体を捻らせると、桃花と対峙する総悟の顔を見た。
同じ翡翠色同士の瞳。
総悟と獅童の視線が絡みあう。
「その子、は……」
総悟が瞠目すると同時に瞳に光が戻り、忙しなく揺れ動く。
(あ……)
父子の予期せぬ対面に、桃花の心も千々に乱れる。
総悟が戦慄きながら独り言ちた。
「嘘、だろう……? なんで……?」
すると、総悟が一度大きく深呼吸をして、桃花のことをまっすぐに見つめた。
「ねえ、桃花ちゃんは今、その子と二人暮らしなの?」
「はい、そうですが……」
彼の眼差しが強くなる。
「だったら、君にお願いがある」
「なんでしょうか……?」
「その子の父親が誰か教えてほしい」
「……っ……それは……」
総悟が桃花のことをまっすぐに見据えてくる。
「君の性格上、ゆきずりの男の子どもを妊娠するとは思えない。その子は」
「……っ……」
総悟に言い当てられそうで、桃花に衝撃が走る。
全身が震えて戦きはじめ、獅童が不思議そうに顔を覗いてきた。
(もういっそ、ここで伝えてしまう……?)
真実を告げれば、きっと楽になるだろう。
総悟と竹芝の二年前のやり取りが脳裏浮かぶ。
『だけど、俺は……子どもは必要ないと思ってる。大事なものを失うぐらいなら……最初から子どもなんて必要ない……欲しくないんだよ』
ドクンドクンドクンドクン。
心臓の音がうるさくて周囲の雑踏の音が聴こえなくなっていく。
243
お気に入りに追加
1,450
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
腹黒ピアニストは年上メイドを溺愛する
季邑 えり
恋愛
須藤景子は新しく雇われた玉造財閥の御曹司、洋平坊ちゃまの専用メイドとなった。我儘ばかり言う坊ちゃまを甘やかす景子に、洋平の欲望はエスカレートする。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる