上 下
113 / 220
第5章 2年後、2人の子ども

23-5

しおりを挟む
「そんなの、決まっているだろう? 俺は……大事な女性を……君を失ってまで、自分の子どもなんて欲しくないんだよ……!! 君の命を奪うかもしれない子どもなんか必要ない、必要ないんだ……!」

 総悟の叫びには鬼気迫る何かがあった。

「二年前に君を一度だけ抱いた後、反省したんだ。俺がこういう身体だから、子どもが出来ているとは考えづらかったけれど、これから先、何度も身体を重ねていたら、そのうち妊娠させてしまうかもしれない。だから、しばらく君に触れないようにしていたら、君は俺のそばからいなくなってしまった」

 桃花の全身にざわつきが走る。
 桃花も経口避妊薬を内服しはじめた頃だったし、総悟も子どもを授けにくい体質だという、しかも行為はたった一度だった。

(だったら、獅童を妊娠したのは……限りなく奇跡に近い)

 総悟が叫んだ。

「それに、俺は自分の身体に欠陥があるってだいぶ悩んだんだよ。万が一子どもが出来たんだとして、俺の子どもも同じ悩みを抱えて苦しむかもしれない。だったら、最初から生まれてこない方が幸せなんだよ!」

 本来ならば喜ぶべき話なのに、父親である総悟は頑なに子どもの存在を拒否していた。

「そもそも俺は、君以外の女性とは……だから、隠し子がいるわけなくて……ああ、くそっ、どうしたら信じてもらえるんだよ。俺は……」

 総悟が頭をかきむしりはじめた。

「どうしたら……俺が……俺には君だけなのに……」

「社長」

 デスク越しだったが、総悟の両手が伸びてきて、桃花の両腕を掴んだ。
 あまりにも力が強くて痛いぐらいだ。

「分からない、女の人は誰でも俺のことをすぐに好きになってくれたのに……誰でも皆、思い通りになってくれたのに……君だけが俺を好きになってくれない……君だけが……」

「落ち着いてください……っ……社長!」

「どうしたら好きになってくれる? 子どもを授けてはあげられないけど、君に愛されるためなら何でもするよ。だから、どうか、お願いだから……」

 掴まれた腕から、痛いぐらいに彼の想いが伝わってくるようだ。
 彼の手がカタカタと震えている。

「もう嫌だよ、いなくならないでほしい。俺のことを見てくれ。桃花ちゃん……桃花……」

「私は……」

 桃花の心が揺れ動く。
 愛した人に求められているはずなのに……
 彼が他の誰かと自分を重ねていて、その誰かに去られるのを異常に怖がっているようにも見えた。

「社長は……他の女性と違って、私が貴方の思い通りにならなかったから、執着しているだけなのではないですか?」

「え?」

 総悟の瞳が忙しなく揺れ動く。

「もしも私が貴方の思い通りになるような人間だったのなら、貴方は私に興味さえ持たなかったのでは?」

「桃花ちゃん、どうして、そんなこと言うの?」

「どうして、でしょうね」

 桃花はそれ以上は何も答えることが出来なかった。
 ずっと聞きたかったことでもある。総悟が桃花にそばにいて欲しいと思ってくれていることも分かっている。
 だけど、どうしても、写真の女性のことや両親の交通事故の一件を話してもらえていないことなど、分からないことも多すぎる。

(どうしてここまで総悟さんが私に愛されたがっているのか、自分でも分からない)

 総悟から縋るような瞳を向けられて、桃花の心は揺れ動く。

「私の両親の事故の件などがあるから……同情しているのではないですか?」

「違う、同情なんかじゃない! 俺は……」

 ちょうど、その時。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...