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第4章 2年後、再会した2人

17-1 冷たくなった総悟

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 総悟の会社で仕事を再開して、はや数日が経った。
 桃花が社長室に設けられた秘書机で黙々と仕事をこなしていると、総悟が姿を現わした。

(あ……)

 二年前以上に精悍さが増した彼の顔を見て、心臓がドキンと跳ねてしまう。それと同時に、彼が腕に抱えているものを見て、彼女はうんざりしてしまった。

「これをどうにかしておいてほしい。あとは、今日の取引先に礼状を。それと、来週初めに入っている出張の準備と、戻ってきてからの会議の資料の作成を今日中に頼んだ」

「今日中、ですか?」

「ああ、そうだよ。できないのに、社長の専属秘書に戻ったわけじゃあないだろう?」

 桃花は何か言いたかったけれど、ぐっと溜飲を下げた。

「……分かりました」

 そうして、机の上に置かれた見たこともない量の書類を見て、ふうっとため息を吐いた。

(さすがにあり得ないんだけど。会議の準備だって、以前だったら前日までの準備で良いって言っていたのに。しかも、こんなにすぐに資料が必要な訳ないでしょう……?)

 それだけ社長の仕事が忙しくなっているからとも考えられるが、それにしたって量がおかしい。
 絶対に残業しないといけない量の仕事だ。
 これが毎日のように続いていて、明らかな無理難題を押し付けられていると言っても過言ではない。
 獅童との時間も大事にしたいから定時で上がりたいが、残業なしの破格の待遇の仕事だから辞めるわけもいかない。

(大丈夫、久しぶりだからびっくりしてしまったけど、ちゃんと私ならこなせるはず)

 とりあえず書類の三分の一を整理した頃には、陽は傾きつつあって、定時近くになっていた。

(まずい、このままだと絶対に終わらない。残業なしで良いって言われても、仕事を途中放棄するのもダメだし……延長保育を頼まなきゃ。子ども園に連絡しないと……!)

 桃花は席を立ち、パーテーションの向こうにいる総悟の元へと顔を覗かせる。

「二階堂社長、電話をしないといけなくて、少しだけ席を外します」

 彼はこちらに顔を向けることなく、書類を眺めたまま返事をしてきた。

「ここで電話したら良い。席を外す必然性はないだろう」

「それは……ですね……」

 今から電話をするのは、子ども園だ。うまく誤魔化しながら連絡しても良いが、絶対にどこかでボロが出る。それで総悟に獅童の存在が気づかれてしまっては元も子もないではないか。

「やましい内容じゃなければ、ここで電話できるはずじゃないか? そもそも仕事中に私事の電話をするなんて、二年前の君じゃああり得なかった気がするけど」

 桃花が何も言えないでいると、総悟が瞼を閉じて溜息を吐いた。

「……どうぞ、君の好きなようにしたら良い」

 不機嫌そうな総悟を部屋に残したまま、桃花は廊下に出たのだった。


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