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第2章 2年前、幸せな2人

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 二階堂副社長は女性のようにも見える綺麗な顔立ちなのに筋骨隆々とした体躯の持ち主のようだ。

(普段はスーツを着ているから、身長が高いなとか、そんなことしか考えたことがなかったけれど……そういえば、筋トレが趣味だって言っていたけど、本当だったのね)

 これまでも衣服を着たままの状態で何度か抱きしめられたことがあったけれど、雄々しい体つきを目の当たりにすると、この身体に抱擁されていたのだと改めて考えてしまって、桃花の動揺は激しくなる一方だ。
 なんだか相手を直視できずに恥ずかしくなって視線をそらしていると、腰のあたりの重みがふっと軽くなる。
 ベッドの端に座り直した副社長が、ベルトを外す金属音が室内に響いてきた。

(副社長も裸になってるのよね……)

 次第に暗闇に視界が慣れてきて、相手の動きがうっすらと視界に入ってくる。
 これから先に起こる出来事の想像だけがどんどん膨らんでいってしまう。
 すでに肌は茹だってしまっているが、頭の芯まで炙られているかのような錯覚に陥ってしまう。
 パサリと衣服が床に落ちる音が聞こえる。
 ギシリ。
 そうして、全てを脱ぎ捨てて裸になった副社長が、再び桃花の身体の上に乗ってきた。
 彼も暗闇に視界が慣れてきたのだろう、改めて彼女の身体をまじまじと眺めはじめる。

「ああ、桃花ちゃん、すごく綺麗……顔だけじゃなくて、身体も手も足も全部全部」

「……っ……」

 熱に浮かされたかのような蕩ける瞳で見つめられ、自分自身の何もかもが見透かされそうで、なんだか気恥ずかしかった。

「ねえ、もしかしなくても……桃花ちゃんは男の人とこういうことをするのは初めてなのかな?」

「え……?」

 『男性は初めての女性が面倒くさいと思う節がある。だから、早く処女を捨ててしまいたい」という話を、大学生の頃に女性たちがこぞって喋っていたことがあった。

(どうしよう、副社長から面倒くさいって思われちゃうかもしれない)

 これまで異性交遊がなかったことを恥じたことはなく、真面目に生きてきた証拠ぐらいに思っていたけれど……
 好きな男性に自分がどう思われるのかが気になってしまって、桃花は二の句を告げなくなった。
 言いあぐねていると、二階堂副社長がこれまでに見たことがないぐらい嬉々とした調子で喋りはじめた。

「桃花ちゃん、初めてなんだね」

「え……どうして初めてだって分かって……それに……」

「だって桃花ちゃん、嘘がつけないからさ。すぐ口ごもるから分かりやすい」

 そうして、二階堂副社長が蕩けるような極上の笑みを浮かべてくる。

「君の初めてが俺だなんて、すごく嬉しいよ」

(あ……)

 予想外の反応に心臓がドキドキしてしまう。

「副社長、私は……」

 その時、そっと彼女の唇に彼の人差し指が宛がわれた。

「ねえ、せっかく今は仕事中じゃないんだ。良かったら、俺の名前を呼んで欲しい」

 思いがけない願いを告げられる。

「名前? 二階堂さん……?」

「んん? まあ名字も悪くないんだけどさ……」

 すると、二階堂副社長がチラリと桃花を見てきた。
 おねだりをする子どものようだ。

「下の名前が良いな。ねえ、俺の下の名前、何か知ってる?」

「もちろん上司の名前は存じております」

「だったら、ほら」

 改めて促されると恥ずかしくて仕方がない。
 桃花は頬を朱に染めながら返した。

「……総悟、さん……」

 すると、どうしてだか、総悟の耳も朱に染まる。

「ありがとう、桃花、さあ、君に最高の初夜をプレゼントしてあげるよ」

 そうして、総悟が桃花の唇を何度も啄みはじめたのだった。


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