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第1章 2年前、出会った頃の2人
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しおりを挟むそうして、総悟の手ほどきを受けながらクレーンゲームを再開した。
先ほどよりもうまく行きそうだったが、残念ながらぬいぐるみはコロリ横に転がってしまう。
「ああ、おしかったね。お金、少ないんでしょう? 貸そうか?」
「いいえ、結構です!」
クレーンゲームにしばらく熱中した。
予算は二千円。
欲しいあの子を狙う……!
そうして、何度目かのトライで、タグに引っかかった。
「やった! ヒーローの獅童くんを手に入れました!」
ちゃんと自分で手に入れることが出来た。
小さい頃に観ていた戦隊もののレッドの獅童くん。彼は炎を抱えた白うさぎに変身することがあった。その動物に変身した際の姿のぬいぐるみをゲットしたのだ。
(獅童くん……)
熱血キャラで皆を見捨てない。すごく勇敢で大好きだった。
念願の獅童君をゲットできて、桃花が顔を埋めていると、二階堂副社長がポツリと呟いた。
「ふうん、カッコイイだけじゃなくて、可愛いじゃん」
耳ざとく拾った桃花は二階堂副社長にキラキラした瞳で告げる。
「そうでしょう!? 副社長にもわかるんですか、この獅童君の良さが!?」
「んん? まあ、その子のことを言ったんじゃないけどね……?」
総悟がふっと微笑んだ。
「本当、君と一緒なら退屈しなさそうだね」
「……?」
「いいや、こっちの話。さて、せっかくだから帰りも送るよ」
桃花は総悟と一緒にゲームセンターを立ち去ることになった。
「それにしても懐かしいね、それ。戦隊もののマスコットでしょう? 俺も小さい頃に観てたよ」
「副社長もご存じだったんですか?」
「うん、まあね」
総悟が穏やかに微笑んだ。
「副社長の子ども時代って、どんな感じだったんですか?」
「……そうだね」
すると、総悟が遠い目になった。
「……もうあの頃には戻れない。悲しいけどね」
何か触れてはいけない話だったのかもしれない。
ちょうどゲームセンターに子ども連れの家族が現れた。
「副社長はなんだかんだで面倒見が良いし、他の女性社員たちも言っていましたが、ご結婚はされないんですか? 子どもの世話とかも得意そう」
すると、総悟の顔が一瞬だけ歪んで見えた。
ドクン。
「特定の女性に縛られるのは好きじゃないし……そうだな、子どもは……無理してまで……必要なわけじゃないしね」
ザワリ。
なんとなく触れてはいけない話題だったと後悔する。
(私、もしかしてマズいことを言ってしまった……?)
だが、ほんの一瞬の出来事で、元の表情に戻っていた。
「ああ、桃花ちゃん、せっかくだから、俺の獲ったぬいぐるみも大事にしてあげてよね」
「ええ、ありがとうございます」
元の雰囲気に戻ったので、桃花はホッとした。両腕いっぱいに抱えたぬいぐるみ二体をぎゅっと抱きしめる。
「俺もそんな風にぎゅっとされたいな」
「え?」
一瞬意味が分からずに困惑してしまう。
だがしばらくすると理解した。
「……しませんから!」
「やっぱり……!?」
二階堂副社長の調子はすっかり元に戻ってしまっていた。
「ねえ、桃花ちゃん」
「なんでしょうか?」
二階堂副社長に突然声をかけられる。
「桃花ちゃんは、本当に人間ってやり直すことができると思う?」
なんとなく真剣に答えた方が良い気がした。
「ええ、勿論です。過去は変えることはできません。だけど、人は間違いを起こしたとしても、ちゃんとそれから先の未来で、ちゃんとやり直せるって思うんです」
すると……
「そうか、ありがとう」
総悟の顔がくしゃりと歪んだ。
桃花は、ふと思い出したことがある。
(確か二階堂総一郎会長には奥さんはいない。だから、両親不在に嘘はない気がする)
そう考えると、先ほどの二階堂副社長の話は全てが嘘ではないような気がしてきた。
「さあ、桃花ちゃん、ご飯を一緒に食べに行こう。美味しいレストランを予約してるからさ」
「はい、ありがとうございます!」
そうして、彼女は彼の背を追い掛ける。
(二階堂副社長は子どもの頃に何かあったのかしら……?)
気にはなったが、恋人や家族ではないのだ。
二階堂副社長は、一見すると人当たりが良くて穏やかだけど……
時々、暗い何かが垣間見える。
(どうしてこんなに二階堂副社長のことが気になるんだろう……)
彼が後生大事に持っていた写真のことを思いだすと、胸騒ぎがするのはどうしてだろう?
この頃からなんとなく、桃花は二階堂副社長のことが気になりはじめたのだった。
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