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本編

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 王城の外れにある森の奥深く。
 人気のない場所にぽつんと石造りの塔がそびえたっていた。
 そのてっぺん、薄暗くてヒンヤリした部屋の中。
 魔術師である私リーリアは、古めかしいランプの灯りの下、薬剤調整のための器材や薬草に書物たちに囲まれながら実験に励んでいた。

(もう少しで完成する……)

 ホーホー。
 遠くからはフクロウの鳴き声が聞こえる。
 ちらりと格子窓の向こうへと視線を移す。

(もうこんな時間なのね……)

 窓ガラスに自分の姿が反射する。
 夜明けの空のような紫紺色のローブからは、緩やかな銀髪が零れ落ちた。紫水晶アメジストの丸い瞳が実年齢の十九歳よりも幼さを際立たせてくる。
 手に持ったフラスコを目の高さで掲げた。妖艶な桃色の液体がちゃぷちゃぷと揺れる。

「あとは使用者の特別な体液さえ入手すれば、惚れ薬になるわ」

 ふと、片思い中の幼馴染の騎士様の姿が浮かんだ。

(アーサー兄さま……)

 私には小さい頃から大好きな幼馴染がいる。
 父侯爵と母を事故で亡くしてしまい、身寄りを失った私の後見人兼世話をしてくれたのが、アーサー兄さまの生家である公爵一家だった。

『ええん、リーリアは一人ぼっちになっちゃったよ』

『リーリア、俺のことを本当の兄のように思ってくれて良いから』

 両親に置いてけぼりにされたと思って泣いていた私のことを、そっと抱きしめてくれたのだった。
 アーサー兄さまは七才年上で、本人の言ったとおり実の兄のように遊び相手になってくれた。
 時々意地悪をしてくる貴族たちがいたけれど、いつでも庇ってくれたのを覚えている。

『リーリア、高い魔力持ちなのに制御できない無能! お前が両親を殺したんだろう?』

『お前たち、おかしなことを言うな! リーリアのせいじゃない!』

 私が十六で成人するまでは、アーサー兄様のお家である公爵家でお世話になっていた。
 人嫌いだった父侯爵は森の奥深くの塔に住んでいたのだけれど、今では私はそこに住んで父の残した研究を引き継いでいた。

『リーリア、こんな場所に一人で大丈夫か?』

『ええ、アーサー兄さまも知っているでしょう? 私、魔力だけは高いから大丈夫よ』

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