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しおりを挟むすると、水を得た魚のように継母と圭子が叫びはじめる。
「あなた、あやかしが……化け物が現れたのです!」
「そうよ、お父様、どうにかしてちょうだい!」
だが、父は衝撃を受けたまま、その場に固まってしまっていた。
顔面蒼白でそのまま卒倒しないか心配になるほどだ。
父はぶるぶる震えながら続ける。
「そのお姿は……まさか……」
夫の様子に気付いたのだろう。継母が鼻をフンと鳴らしながら続けた。
「あなた、まさか、その化け物を知っているとでも?」
すると――
朝霧が発言を継いだ。
「阿呆が、見たことあるに決まっとるやろう、帝の顔を忘れたとか話にならへんで」
――帝。
(まさか……)
父が床に座り込むと土下座して叫んだ。
「大変申し訳ございません!! お前たちも頭を下げないか!!」
慌てて継母も圭子も床に座り込んで謝罪の姿勢を示した。
(朝霧が帝だったなんて……!)
思いがけない真実に胸がざわついてしまう。
竜が人間になるのだって驚きなのに、今上帝とは――
(確かに噂では、帝は誰も後宮には入れずに巨大なあやかしを飼っているとかいう話だったわね)
つまるところ、朝霧本人が時々内裏で竜の姿に変貌していたということだろう。
(それにしたって、ちゃんと約束を守って迎えに来てくれた……)
衝撃と同時に迎えに来てくれたことに対しての悦びが胸にじわじわと広がっていった。
いつの間にか近くに来ていた朝霧が私の身体をそっと抱き寄せてくると耳元で囁いてくる。
「姫さん、あんたが文にこだわってたさかい、ちゃんと文を出したけども、どうやった? 俺の字、綺麗やったやろ?」
――文。
先ほどの帝からの書状のことだろうか――?
文のやり取りをしたいと言った私の言うことを覚えてくれていたのだと思うと嬉しくはあったけれども、素直になれずに顔を逸らした。
「……思ってたのと違いました」
「俺の嫁はいけずやな」
クスリと微笑まれると、相手に自分の気持ちが気づかれてしまっているようで、恥ずかしくなってしまう。
重たい小袿など物ともせずに、朝霧が私を横抱きに抱えてこられた。
そうして――ぶるぶる震える継母と義妹を睥睨すると低い声で告げる。
「人のもんや立場を羨むんは勝手やけど、誰かを貶めるやり方で奪うなり引きずりおろしたり、何も考えないまま楽して手に入れて、それで一時的に良い立場になって……その先に何がある? そもそもそんなくだらないことに何の意味があるんや? そんな虚構、ほんまに意味ないで。自分で考えたことのない奴らには一生分からんかもしれんんがな……」
朝霧は、これまでの桜子への仕打ちに対して怒ってくれているのだろう。
「なあ、姉ちゃんがた。この子がどれだけ非難されても、あんたがたに何にも返してこなかった理由は知っとるか?」
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