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しおりを挟む私はあやかしが見える。
それが原因で家族――継母である北の方と異母妹から疎まれて生きてきた。
「桜子、その金の瞳で私たち母子をジロジロ見るんじゃありません! あんたは外の掃除でもしてなさい!」
大納言家の屋敷の東の対(※そば仕えの者たちや、主人の子どもの達の居住空間)の外れ。
美人ではあるが神経質そうな顔をした継母が、私に向かって唾を飛ばしながら怒鳴りつけてきていた。赤・青の織紋のある唐衣に、冬だというのに菖蒲の表着を身に纏っており、あまり品があるとは言い難い。
彼女の後ろに隠れていた異母妹の圭子が姿を現わすと、侮蔑の視線を私に向けてきた。
「お母様、お姉さまがまたわたしに嫌がらせをしてくるかもしれません。帝のそばに侍る身である、このわたしに……!」
現在――京の都は平和そのものだ。現春宮(※皇太子)がまだ幼いことで、地方に住んでいた皇族の男性が帝の位に就いている。これまでの帝は多くの女性達を後宮入りさせていたが、いまだ女性がだれも入内していない。理由は定かではないが、不能だとか男色家だとかいう噂がある。その中でも恐ろしい噂の一つが、内裏の中にあやかしの類を飼っているというものだった。
(新月の夜になると、巨大な蛇のようなとぐろを巻いたあやかしが出没するというけれど……)
そんな噂は所詮噂でしかないと思う貴族たちの間では、帝のそばにいち早く入内できた女性の一族が権勢を誇ることができるのではないかという噂で持ち切りだった。
そのため、圭子も帝のおわす後宮入りを果たしたいと願っているのだ。
(私があやかしが見えるのは恐ろしがるというのに……)
義母が私に向かって叫んでくる。
「おお、わたくしの可愛い圭子や。可哀想に……桜子! 掃除が終わったら、お前は今日も納屋で過ごしなさい! わかったかい!?」
「わかりました、お義母様」
とりあえず謝罪しつつ、その場を凌いだ。
(お父様はまだしばらく帰ってこないわね……)
今日は元日ということもあり、大納言である父は四方拝(※元日の早朝、清涼殿の東庭で天皇が天地四方神を拝礼し、豊作と国家安泰を祈る)に出かけており、これから数日は帰ってこない。
父が不在の時はいつも、継母が東の対で過ごす私の元を訪れては癇癪を起こして怒鳴りつけた挙句、冷え切った納屋で過ごせというのだ。到底大納言の姫に対する扱いではないが、周囲の人間たちも北の方の機嫌を損ねるのを恐れて、大納言である父には報告しないのだ。
私も一度父親に相談したら、次に父が不在の時に飯を数日抜かれたり、大事にしていた母親の形見の表着を燃やされたりと、さらにひどい目にあったことがあり、それ以上は何も告げないようにしていた。
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