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3日目

43 最初の記憶4

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 しばらく魔剣はだんまりになった。

『そうですね……それは考えたこともなかったけれど、確かに破壊だ。我々の力があれば可能です』

『そう。良かったわ』

 漆黒に染まり切った剣を片手に、ゆらりとヒルダは立ち上がる。
 ジークフリートが息も絶え絶え続ける。

『ヒルダ、よせ……俺はどうだって良いんだ……そいつの願いを聞いたら、お前は――もう普通の存在には戻れ……なく……』

『すまない、ジーク、私は貴方を殺したくない』

 そうして、ヒルダが剣を振り下ろす。
 空間に亀裂が走った。

『さすが、ヒルダ様です、素晴らしい! 歴代の魔王の中でも最高の力の持ち主だ!』

 魔剣が喜々として喋る。

 だが、対照的にヒルダの声音は低かった。

『本当、それは良かった……』

 そうして――
 寝そべるジークフリートの脇にしゃがみ込むと、彼の身体の上にヒルダは覆いかぶさるようにして突っ伏した。

『ジーク、ごめんなさい、どうなるかは分からない。だけど、貴方を死なせたくなかったの、ごめんなさい……ごめんなさい……』

 すると、彼は震える手で彼女の黒髪と背を擦った。
 かすれがちな声を震わせる。

『……ああ、ヒルダも、もしかして、俺のことが、好き……だったの……?』

『ジーク……』

『まさか、好きになった、女性が……魔王になる展開は、考えてなかったな……』

 ヒルダの背中がピクリと震えた。

『あ……』

 清らかな聖女ならばともかく、破壊を司る魔王だなんて――

『ジークは嫌よね、こんな……魔王だとか……ごめんなさい、本当に……だけど、死んでほしく、なくて……』

『君が独占欲強いの、護衛騎士にして縛り付けられた段階で気付くべきだったな』

 畏怖や軽蔑を孕んだ瞳で相手に見つめられるのが怖かった。
 そのまま逃げ出そうとしたけれど――

『ヒルダ』

 震える彼の手の力が、微かに強くなった。

『まあ、良いか。好きな女性に、縛られる人生も……激重感情を向けられるのも、まあ悪くないかな……』

『ジーク……』

 ヒルダの心が仄かに熱くなり、ぱあっと表情が明るくなった。

『ねえ、俺は、どんな君でも好きだよ』

『……ジーク、私……私も……』

 その時、魔剣が叫んだ。

『ヒルダ様、さあ、はやくこの世界を粛正してしまいま――』

 瞬間、禍々しい剣が真っ黒な炎に灼かれた。

『ぎやああ、どうしてえ……』

 ヒルダはジークフリートの髪を撫でながら続ける。

『私はジークと結ばれたいの。だから、魔王にも聖女にもなるつもりはない……』

 断末魔の叫びが聞こえる中、ぴたりと風が凪ぐ。

 まるで時が止まったかのように、ヒルダは微動だにしなくなった。

 炎にあぶられながら、聖剣――否、魔剣が告げる。

『……愛しい男のため、時を壊し、壊れた時空、夢の中を彷徨うのですか、魔王ヒルダよ……』

 そうして、魔剣の命の息吹が消えた。


 それ以降の記憶が曖昧で――



 おそらくずっと、聖剣に出会うところから、三日間を繰り返しているのだ。


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