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本編
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しおりを挟む(陛下なら――あの時約束した彼なら、私を絶対に抱き留めてくれる!)
差し伸ばされた手に、手を差し伸べ返した。
少しだけ指同士が触れ合う。
ぎゅっと握り返した瞬間――。
「えいっ……!」
駆ける荷台の上から私は身を投げ出した。
ドレスが風に嬲られる。
「きゃああああああ、落ちるぅぅぅぅ!!」
力強く腕を引かれた。
勢いよく馬上の彼の胸に飛び込む格好になる。
少しだけ身体に衝撃が走ったが、すぐに逞しい腕に抱き寄せられて、彼の温もりを感じた。
ウルフ陛下は、器用に私を抱きしめながら馬を繰り続ける。
「もうちょっと可愛い悲鳴を上げてくれよ、これだけ俺様が格好よく登場したんだからさ」
馬上の彼が軽口を叩いた。
「せっかくジュリーと共謀して、成人前日に宰相の手から連れ出してたってのに、なぁにやってんだよ、俺のお妃さまは――ジュリーが俺のところに走ってきた時は心臓止まるかと思ったぜ。この俺様をここまで振り回すなんて、とんだ悪女だよ……」
安心して涙がぽろぽろ零れた。
駆ける馬の上、二人でぎゅっと抱きしめ合った。
まだ走り続ける馬車の荷台の中から、宰相がずるずると出てきて叫んだ。
「……そうだ! もうその女は後宮の外に出た! 陛下の妃などでは――」
陛下がにやりと笑った。
「残念。お前さんが娘の修道院騒ぎで右往左往してくれてる間に、裏で根回ししててさ。ジュリーが俺の変装して、ご令嬢たちへの諜報活動に勤しんでくれてたんだよな。おかげで皆の弱みがわんさか出て来たわけだ。そんでもって、後宮制度の廃止に議会の皆が賛同してくれたんだよなぁ。だからもう、別に妃が後宮の外に出ても問題なくなったわけ。ついでに言えば――」
陛下が私の頬にちゅっと口づけてきた。
「――今日からマリーが俺の正妃になる」
思わぬ発言に目を見開いた。
「あと、ほら、お前の屋敷にある裏で色々武器を横流しにしてた件の文書だけど……これ見せたら、自分たちが罪に問われたくないのか、皆がこぞって、あんたの不正の証拠を提出してくれたよ」
「なぜだ!? なぜ? どうして屋敷に? まさか、ジュリー!? あの子が……!? どうして、私を裏切ったのだ!?」
「お察しの通り、ジュリーの手柄でもある。どうしても何もなぁ、あいつはマリーが好きだからなぁ」
ウルフ陛下は続けた。
「あんたがお縄についても、もうあいつは修道院に入っているから、娘のジュリーまで罪に問われることはない。俺の奥方のマリーの父親に、昔、濡れ衣を着せてた犯人もお前だよな……? 幼いマリーほしさにさぁ……まあ、これだけ可愛い子ウサギだ。欲しくなるのは分かるけどなぁ」
「お、お前っ……! ええい! お前達、金はくれてやるから、出て来い!」
坂道を取り囲む、雑木林から傭兵たちが飛び出してきた。
「きゃっ……!」
さすがに数が多い。
と思ったが、陛下の敵ではなかったようで、どんどん剣で薙ぎ払っていく。
(強い……)
見惚れていると、弓矢がどこかから飛んできたが、彼が払う。
そうして、宰相の顔の横の柱に陛下が剣を突き刺した。
「やっと目障りだった宰相様もいなくなる。俺が良い世の中に変えてやるよ。あと、そうだな、俺の姉貴を育ててくれたことと、俺の妃に手を出さないでいてくれたこと、礼を言うよ――」
宰相の座を失脚した男は、ずるずると馬車の中に倒れ込んだ。
「まあ、これで裏で色々やってくれた宰相様も失脚だ。でかした、マリー。これで俺の天下だぜ!」
そうして、「あとはわたくしに任せなさい」と告げて来たジュリーお姉様と駆けつけて来た騎士達に残りは任せて、私たちは馬で城に帰ったのだった。
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