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本編
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しおりを挟む藁を投げつけたが、それだけではどうしようもない。
「さあ、動く馬車の中だ。逃げ場はないぞ」
そうこうしていたら、鼻息荒く、宰相が私を抱きしめて来るではないか。
(陛下と違って気持ちが悪い……!)
「ていっ……!!」
思わず勢いよく頭突きを繰り出してしまった。
「ぎゃっ……!」
潰れた蛙のような声を出した宰相から逃げて、荷馬車の後方へと向かう。
馬車は猛スピードで坂を駆け下りていた。
「こうなったら、飛び降りるしか……!」
ケガは免れないだろう。
だけど、宰相に犯されるよりもマシだ。
「って、やっぱり速いいいいい」
覚悟を決めて、飛び降りようとしたが、想像以上に速かった。
背後に迫ってきている。
「ひええええええええ」
ちょうど、馬車の後ろ、宰相の手下だろう栗毛の馬に乗る騎兵たちが見えた。かと思えば、彼らを制しながら、白馬に乗った誰かが突き進んでくる。何騎も相手でも諸共にしない。相当な手練れの人物だと分かる。
思わず目を凝らした。
「もっと可愛い叫びは出来ないのかよ、俺の奥方は――」
吹き付ける風に、黒髪がたなびく。
菫色の切れ長の瞳の美青年。
目が合う。
「迎えに来たぞ、マリー!」
――愛しい彼の声が、風に乗って届く。
「……陛下!」
いつもふざけた様子の彼が、真剣な表情で馬を繰って駆けてくるではないか。
ぐんぐん荷馬車へと近づいてきた。
「ほら、飛び降りて来い! 絶対に受け止めてやる!」
景色の流れが異常に早い。
陛下に追いつけれてしまったからか、馬車の速度が勢いを増していた。
もし彼が受け止めてくれなかったら、地面に物凄い勢いで叩きつけられて終いだ。
「今度は俺がお前を助ける番だ!」
その時、頭に何か閃いた。
「あ……」
昔、一緒に荷馬車に乗った――。
あれは、ジュリーお姉様じゃなくて――。
「あの時の――」
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