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本編
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しおりを挟むその夜。
「マリー嬢、どうした? いつもより元気がないなぁ」
ちょうど陛下が現れる。
「その……確かに私が元気じゃないの、変ですよね?」
「うん、まあ変だ」
気遣って来る陛下に対して、胸の内を吐露した。
「やっぱり政治的な色々があって、仲の悪い宰相の娘であるジュリーお姉様を正妃に迎え入れなかったのですか?」
「それも理由の一つだけど、それがどうしたの?」
やっぱり、そうなのかと思った。
「ん? もしかして、俺がジュリーに恋してるとか思ってる?」
「ひあっ……!?」
図星をつかれて、素っ頓狂な声が出てしまう。
「その、お姉様は陛下のことは好きじゃないって言ってはいたんですけど」
「それ、本人を前にして言う?」
陛下はカラカラと笑った。
「それだけはないから安心しろよ」
そう言って、頭をくしゃくしゃにかき回してくる。
「……言えば、ジュリーは共謀者だよ。あっちも絶対に俺だけはないから、安心しろ」
「本当の本当ですか? 私に気を遣っているのではなく?」
「本当、本当。信用無いな……俺はね、前から言ってるみたいに、一輪の花を愛でていたいんだよ」
そうして彼がちゅっと額に口づけてくる。
「あ、そうだ。この間の刺繍、外務大臣に見せたら面白がってたから、もう少しだけもらえる?」
「はい、良いですよ」
ちょっとだけ心が晴れた状態で、私は陛下に刺繍を渡したのだった。
※※※
そうして数日が経ったある日のこと。
ぽかぽか陽気な庭で、刺繍をやっていた。
「マリー」
突然、陛下ではない男性の声が聴こえて、はっとなった。
(ここは後宮。近衛騎士だって女性じゃないと入れない場所なのに)
「あ……宰相様?」
陛下の許可でもあったのだろうか。
不思議に思っていると、白髪の瘦身の男は語りはじめる。
「ジュリーが修道院に入ったのだ」
「え? ジュリーお姉様が……!?」
あれだけ陛下は、勝手なことをしないと約束してくれたのに――。
(なんで……陛下、どうして? お姉様に理由を聞かなきゃ……)
そこまでして、はっとなる。
(あの陛下がそんなことをするはずない……!)
身構えた瞬間、突然、宰相様に口を塞がれてしまう。
噛みつこうとしたが無理だった。
「陛下がお前を側妃にしたと聞いた時は、なんの冗談かと思ったが――来てもらうぞ」
しまった。
あれだけ、宰相には気をつけろと言われていたのに――。
じたばた暴れるのもむなしく、そのまま私は宰相様に担がれて連れて行かれてしまった。
紅い刺繍糸が、私の手から一筋垂れたのだった。
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