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本編
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しおりを挟む最近、幼馴染であるジュリーお姉様が憂い顔で過ごしている。
陛下の叔父にあたる宰相。彼の娘であるジュリーお姉様は、容姿端麗、頭脳明晰、どれだけの美辞麗句を並べ立てても足りない位に器量良し。本当に完璧な存在だ。
今日は彼女に二人っきりの刺繍会に誘われ、屋敷を訪れていた。
流麗な黒髪と紅いドレスのコントラストに見惚れていた私だったが、思わず声をかけてしまった。
「最近どうなさったのですか、ジュリーお姉様――あ、ごめんなさい、ジュリー公爵令嬢」
彼女は縫いかけの刺繍を、猫脚のサイドテーブルへと置いた。
「マリー伯爵令嬢、いいえ、わたくしの大事なマリー。いつものように、ジュリーお姉様と呼んでくださいませ。実はウルフィウス陛下のことなのです」
ウルフィウス陛下はジュリーお姉様の従兄弟君に当たる人物だ。彼もまた頭脳にも武術に長けた人物である。
(だけど、ジュリーお姉様とは決定的に違う)
一言でいえば……。
(女好き、遊び人、道楽人……チャラチャラしてる……一言じゃなかった)
幼い頃に国王として即位した陛下。もう成人しているので、後宮に女性を召し上げないといけない。だというのに、誰も招き入れていない。だが、誰も入れていないだけで、侍女やらご令嬢との情事の噂はもっぱら絶えないのだ。
従姉妹であるジュリー姉様が正妃に上がる話が出ているのに、これ以上宰相の傀儡でいたくないのか、彼は拒否している。
「彼は昔から、わたくしのことを嫌っております。先日、ついに晩餐の場で――」
その時――。
「ジュリーお嬢様」
執事がお姉様に声をかける。
「どうしたの?」
「陛下が来ております」
「陛下が、わざわざ城から出向いたというのですか?」
ジュリーお姉様が流麗な眉をひそめた。
――話題の国王陛下が、お姉様の屋敷にいているというのだ。
バンッと扉が開かれたかと思うと、黒髪長身痩躯、漆黒のテイルを羽織った美青年が現れた。
彼が部屋に入ってきた瞬間、オリエンタルの官能的な香りが燻る。
愛しのお姉様に似た美しい艶やかな黒髪に、菫色の鋭い瞳を持った麗しき美青年。
誰をも蕩かすような甘い顔立ちの彼の、薄い唇がゆるりと弧を描く。
「ジュリー、先日伝えた通りだが、俺はお前を妻に迎えるつもりは毛頭ない。ジュリーがいると、俺の近くに寄ってくる女性たちが全然やってきてくれねぇ。もう宰相の監視もうんざりだ。せっかくだから、この俺様がお前のことを修道院送りにしてやるぜ」
顔面蒼白になったジュリーお姉様の代わりに、うっかり私が声を上げてしまった。
「なんですって……!?」
――妻に迎えないどころか修道院送り……!?
思わず持っていた布地を取り落としかけた。
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