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 相手を見上げた瞬間、美青年が目に入った。
 蜂蜜色の髪が、扉から入ってくる風でさらさらと揺れ動く。
 すっと通った鼻筋にかかる、羽根のついた仮面の奥に見えるのは、藍銅鉱アジュライトの切れ長の瞳。

(青い瞳……)

 端正な顔立ちの彼は、国でも珍しい魔術師御用達の漆黒のローブを纏っている。

(うっ、眩しくて後光が差して見える……。っていうか、羽根のついた仮面とか怪しくない? あれ? どこかで見たことがあるような……? そもそも魔術師自体が国でも珍しいような?)

 既視感があったが……酔っているからか頭が働かない。
 しかしながら、相手の浮かべる天の御使いのような微笑みに、酔ってささくれた心が癒された。

「はい、サンディ嬢。お水ですよ、どうぞ」

「え……ああ。すごくお優しい方ですね。ありがとうございます」

 天使に注いでもらった水を、私はぐいっと煽った。

(あれ? 水? やけに熱い? でも、お酒じゃない?)

 喉が燃えるような感覚に襲われる。
 視界がぐらぐらと揺れた。

『怪しい人物から酒は注いでもらうなよ、サンディや……』

 育ての親である、おじいちゃんの生前の教えが頭をよぎったが、時すでに遅し……。

(おじいちゃん、水も貰ったらダメだったのかな……? でも、災害の時も、騎士様達が水を分けてくれてて……あれ、私、また騙されたのかな?)

 ああ、こんなダメダメだから、変な男に引っかかるし、仕事も憧れの先輩のようにはこなせないのだ……。

(ああ、だけど初恋の王子様が頭をよぎるのはどうして……? いつもの勘違い?)
 
 そうして、そのまま私は気を失ってしまっていたのだった。
 


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