5 / 10
5※
しおりを挟む翌朝。
魔法騎士団の会議室で団員二十名と共に朝礼が行われていたところだった。
「では、解散だ」
オズワルドの重厚な音が響くと、団員たちが扉の方へと歩んでいこうとする。
朝陽を窓辺に直立不動で立つオズワルドに向かって、エリーはおずおずと声をかけた。
「あの、オズワルド様、昨日の夜に実は……」
「昨日の夜?」
団員たちを見送る彼は仕事モードに移行しようとしているのか、彼女とは絶対に目を合わせようとしない。
(今は相談できる雰囲気じゃないわね。ショーンに自分から話しかけないといけない……!)
思い出したエリーはショーンの方へと歩もうとする。
「ショーン、待ってちょうだい!」
赤毛の彼が振り返った、その時――。
先日と同じように一瞬だけ空間が揺らいだ気がする。
(これは……!)
前方に目をやると、扉から出て行こうとしていた団員達が、皆室内でまるで銅像のように固まって動かなくなっているではないか。
「あ……これは、どうして……?」
動揺するエリーの唇が戦慄いた。
(まさか時間停止の魔法……!? こんなことが出来る人物はこの国に一人しかいない……!)
困惑している彼女の耳へと――。
「君を行かせるわけにはいかない、マズロー秘書官。いいや……私のエリー」
「え……?」
ゾクリとするほど低くて色香を孕んだ声音にエリーの華奢な体が硬直してしまう。
声の主はもちろんオズワルドだ。
「あ……」
漆黒のローブを纏ったオズワルドの海のように深い碧い瞳には、怪しげな光が宿る。
フード部分を取り払うと流麗な黒髪がサラリと揺れて、彼の麗しい顔が露わになった。
カツカツと軍靴を鳴らしながら向かってくる彼から逃げようと、エリーは後ずさろうとしたが、身体が動かない。どうやら、意識はあって声も出せるようだが、身体の自由が奪われてしまっているようだった。
追い詰められてしまった彼女の腰が、会議室の広い机の端にぶつかる。
そうして、接近してきた彼の長い指が顎にかかると上向けられた。
唇同士が触れ合いそうな距離まで近づいた後、彼が酷薄な笑みを浮かべる。
「何度も時間停止の魔法をかけたせいで――耐性ができてしまっていたようだな。私としたことが、とんだ失態だった」
「あ、どうして……オズワルド様……」
エリーの背筋に冷や汗が流れると同時に、ゾクゾクとした感覚が襲ってくる。
「理由が聞きたいか、エリー?」
「それは、だって……もちろんで――んうっ……」
だが、それ以上は問いかけることが出来なくなった。
彼の唇が彼女の唇を塞いでくると、地厚い舌がねじ込まれ、粘膜を這いはじめる。
「あっ……んっ、うあっ……」
41
お気に入りに追加
392
あなたにおすすめの小説
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?
待鳥園子
恋愛
幼馴染みで従兄弟の王太子から、女避けのための婚約者になって欲しいと頼まれていた令嬢。いよいよ自分の婚期を逃してしまうと焦り、そろそろ婚約解消したいと申し込む。
女避け要員だったはずなのにつれない王太子をずっと一途に好きな伯爵令嬢と、色々と我慢しすぎて良くわからなくなっている王太子のもだもだした恋愛事情。

洞窟ダンジョン体験ツアー案内人役のイケメン冒険者に、ラッキースケベを連発してしまった私が患う恋の病。
待鳥園子
恋愛
人気のダンジョン冒険ツアーに参加してきたけど、案内人のイケメン冒険者にラッキースケベを連発してしまった。けど、もう一度彼に会いたいと冒険者ギルド前で待ち伏せしたら、思いもよらぬことになった話。


ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
リス獣人のお医者さまは番の子どもの父になりたい!
能登原あめ
恋愛
* R15はほんのり、ラブコメです。
「先生、私赤ちゃんができたみたいなんです!」
診察室に入ってきた小柄な人間の女の子リーズはとてもいい匂いがした。
せっかく番が見つかったのにリス獣人のジャノは残念でたまらない。
「診察室にお相手を呼んでも大丈夫ですよ」
「相手? いません! つまり、神様が私に赤ちゃんを授けてくださったんです」
* 全4話+おまけ小話未定。
* 本編にRシーンはほぼありませんが、小話追加する際はレーディングが変わる可能性があります。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる