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しおりを挟むその夜、エリーは魔法騎士団寮の中で眠っていた。
実は――秘書官になる際に、なぜだかオズワルドの部屋の隣に住む話が出ていたのだ。
『どうだろうか? その方が、エリー……マズロー秘書官も俺の人となりをもっと知ってくれるだろうから』
『そんな滅相もない……! 結婚するまでは寮に住もうと思っているので、お気持ちだけいただいておきます』
その後も寮で暮らしていたのだが、エリーには最近よく見る夢があって、今日も同じような夢を見ていた。
(オズワルド様が私に口づけていく夢)
そんな夢を見ていると本人に知られたら、気持ち悪いと思われるかもしれない。
だけど、好きな人とキスをする夢はひと時の幸福を味わえるのだ。
(今日も夢の中にオズワルド様がいらっしゃるかしら……?)
けれども、その日は様子が違っていた。
少しだけ体の上が重たい感じがする。
しかも「はあ、はあ」と少しだけ荒い呼吸が断続的に聞こえる。
暗闇の中、エリーがうっすらと瞼を持ち上げると、腹の上に真っ黒な物体が乗っかっているではないか。
(窓を開けて眠ってしまった? まさか犬型の魔獣が侵入してきたの?)
荒い息遣いと熱気を感じると共に、耳に何かを扱きあげる音が聞こえてくる。
背筋を恐怖が這い上がってきて身体を動かそうとしたが、金縛りにあったようで、手先がびくりとも動かない。
食い殺されるかもしれない恐怖と戦っていると、次第に目が暗闇に慣れてきた。
腹の上で黒い獣が蠢くと、ベッドがギシギシと蠢く音とぐちゅぐちゅと何かを扱きあげる音が室内を支配していく。
そうして、呻くような声を上げた後、白濁した何かが腹部に迸るのを感じると、上に乗った相手が獣のようにぶるりと震えあがる。
そうして――相手の双眸とばっちりと視線が絡み合った。
――海のように碧い瞳。
こちらの視線に気づいた相手は、即座にエリーの腹の上から飛び降りると、窓の向こうへと黒豹のような動きで消える。
腹部にべたべたした何かを感じながら、白いシーツの端をエリーはぎゅっと掴んだ。
「どうして? だって、今のは――」
だが、それに答える相手はどこかにいなくなってしまったのだった。
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