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しおりを挟む女子寮にある私の部屋へと上がったアルベルト様は、ぐっしょりと濡れていた衣服をさっそく脱ぎはじめた。
(目のやり場に困る……!)
もちろん男性ものの衣服など持っていないので、私はひとまず、ふわふわとした大きなバスタオルを彼に手渡す。
濡れた身体を拭いた後、彼はタオルを腰に巻き付けていた。
彼の引き締まった上半身や、逞しい二の腕などが目に入り、心臓がドキンと跳ねる。
「メアリー、君の部屋、チョコの良い香りがするね」
そんなことを言われると、なんだか恥ずかしく感じる。
(いつもチョコばっかり食べてるみたい……)
まさしくその通りではあるのだが――。
「制服、かけておきますね」
そう言って、ハンガーに制服をかけていると――。
「メアリー」
後ろからアルベルト様に抱きしめられてしまっていた。
「あ、アルベルト様……!?」
「君に伝えたいことを話しても良いだろうか?」
真剣な声音でそう言われ、私はこくりと頷く。
「メアリー、生誕祭の時に、君は実行委員を一緒に努めたけれども覚えているかい?」
何かの行事でアルベルト様と一緒だったなとは覚えていたが、生誕祭だった。
色々な役割を押し付けられがちだったので、何だったのかをすっかり忘れてしまっていた。
「なんとなくですが……」
「色々な生徒達から仕事を押し付けられていたけれど、君は文句も言わずに役割をこなしていたね。生徒会長の俺が『他に手伝う者はいないのか? 俺も手伝おうか?』と尋ねたが『一人で大丈夫です』と君は答えた」
彼は続ける。
「他の生徒達も見て見ぬふりだし、いじめでも起きてるんじゃないかと思って、君について独自で調査することにしたんだ。最初は同情心のようなものからだった」
――同情心。
大富豪の息子であるアルベルト様だ。貧乏人に憐憫を抱いてもおかしくはない。
「生誕祭も終わりの頃、再度君を手伝おうとしたんだけど、君からは『生徒会長は、会長のお仕事だけでなく大学受験も控えてらっしゃいますし、大丈夫です』と言って、やはり断られたんだ」
私なら言いかねないなと、ぼんやりと思った。
「ちなみに手伝おうとしたのは、ペンキで幟を作る仕事だった。他の行事なんかでは、ご令嬢たちなら、汚れてしまうから嫌だと言うような仕事なのに、嫌がらずにやる君がなんだか俺には輝いて見えたんだ。それからは、気づいたら君のことばかり探していた」
彼は続ける。
「ある時、休みの日だったかに、叔母の経営するチョコ屋に貼りついている姿を見つけた。ああ、叔母と言うのは――」
私は、はっとなる。
「まさか――!」
「そう、マダム・モリスンだ――」
親戚だったのか――。
「どうも君はチョコが好きそうだったが、試食しか出来ないようだった。そうして、これは使えると思ってしまったんだ……」
「使えるというのは……?」
「意気地のない俺は、君をチョコで釣れると思ってしまったんだ……」
(私をチョコで釣る――?)
「他のご令嬢たちとは君は違った。たぶん正攻法で告白しても、断られるだけだ。案の定、生誕祭の時だって、かけらも俺に関心がなさそうだったし、生徒会長挨拶の時に至っては、君は興味がなさそうに欠伸をしているだけだった……」
(アルベルト様に変な姿を見られている……!)
今後は集会などでも注意しようと心に決めた。
「だから、愚かな俺は、君にバレンタインにカードを贈ることにしたんだ。後は知っての通りだ――」
「それは、つまり、その――アルベルト様は……」
「頭の良い君なら分かるだろう?」
背後に立つ彼の腕の力がぎゅっと強くなる。
「メアリー」
そうして私は彼の方へと振り向かされた。
彼のエメラルドのような綺麗な緑色の瞳と出会う。
「俺は君のことが好きなんだ――君みたいな女性は初めて見た……海外留学の後、君を絶対に迎えにいくから……だから、どうか偽の恋人じゃなくて、本物の恋人になってくれないか――?」
鼓動が高くなり、頬が朱に染まる。
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