19 / 23
19※
しおりを挟む女子寮にある私の部屋へと上がったアルベルト様は、ぐっしょりと濡れていた衣服をさっそく脱ぎはじめた。
(目のやり場に困る……!)
もちろん男性ものの衣服など持っていないので、私はひとまず、ふわふわとした大きなバスタオルを彼に手渡す。
濡れた身体を拭いた後、彼はタオルを腰に巻き付けていた。
彼の引き締まった上半身や、逞しい二の腕などが目に入り、心臓がドキンと跳ねる。
「メアリー、君の部屋、チョコの良い香りがするね」
そんなことを言われると、なんだか恥ずかしく感じる。
(いつもチョコばっかり食べてるみたい……)
まさしくその通りではあるのだが――。
「制服、かけておきますね」
そう言って、ハンガーに制服をかけていると――。
「メアリー」
後ろからアルベルト様に抱きしめられてしまっていた。
「あ、アルベルト様……!?」
「君に伝えたいことを話しても良いだろうか?」
真剣な声音でそう言われ、私はこくりと頷く。
「メアリー、生誕祭の時に、君は実行委員を一緒に努めたけれども覚えているかい?」
何かの行事でアルベルト様と一緒だったなとは覚えていたが、生誕祭だった。
色々な役割を押し付けられがちだったので、何だったのかをすっかり忘れてしまっていた。
「なんとなくですが……」
「色々な生徒達から仕事を押し付けられていたけれど、君は文句も言わずに役割をこなしていたね。生徒会長の俺が『他に手伝う者はいないのか? 俺も手伝おうか?』と尋ねたが『一人で大丈夫です』と君は答えた」
彼は続ける。
「他の生徒達も見て見ぬふりだし、いじめでも起きてるんじゃないかと思って、君について独自で調査することにしたんだ。最初は同情心のようなものからだった」
――同情心。
大富豪の息子であるアルベルト様だ。貧乏人に憐憫を抱いてもおかしくはない。
「生誕祭も終わりの頃、再度君を手伝おうとしたんだけど、君からは『生徒会長は、会長のお仕事だけでなく大学受験も控えてらっしゃいますし、大丈夫です』と言って、やはり断られたんだ」
私なら言いかねないなと、ぼんやりと思った。
「ちなみに手伝おうとしたのは、ペンキで幟を作る仕事だった。他の行事なんかでは、ご令嬢たちなら、汚れてしまうから嫌だと言うような仕事なのに、嫌がらずにやる君がなんだか俺には輝いて見えたんだ。それからは、気づいたら君のことばかり探していた」
彼は続ける。
「ある時、休みの日だったかに、叔母の経営するチョコ屋に貼りついている姿を見つけた。ああ、叔母と言うのは――」
私は、はっとなる。
「まさか――!」
「そう、マダム・モリスンだ――」
親戚だったのか――。
「どうも君はチョコが好きそうだったが、試食しか出来ないようだった。そうして、これは使えると思ってしまったんだ……」
「使えるというのは……?」
「意気地のない俺は、君をチョコで釣れると思ってしまったんだ……」
(私をチョコで釣る――?)
「他のご令嬢たちとは君は違った。たぶん正攻法で告白しても、断られるだけだ。案の定、生誕祭の時だって、かけらも俺に関心がなさそうだったし、生徒会長挨拶の時に至っては、君は興味がなさそうに欠伸をしているだけだった……」
(アルベルト様に変な姿を見られている……!)
今後は集会などでも注意しようと心に決めた。
「だから、愚かな俺は、君にバレンタインにカードを贈ることにしたんだ。後は知っての通りだ――」
「それは、つまり、その――アルベルト様は……」
「頭の良い君なら分かるだろう?」
背後に立つ彼の腕の力がぎゅっと強くなる。
「メアリー」
そうして私は彼の方へと振り向かされた。
彼のエメラルドのような綺麗な緑色の瞳と出会う。
「俺は君のことが好きなんだ――君みたいな女性は初めて見た……海外留学の後、君を絶対に迎えにいくから……だから、どうか偽の恋人じゃなくて、本物の恋人になってくれないか――?」
鼓動が高くなり、頬が朱に染まる。
21
お気に入りに追加
629
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった
ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。
その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。
欲情が刺激された主人公は…
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。
水鏡あかり
恋愛
姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。
真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。
しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。
主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる