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 そうして、私たちは裏路地で雨宿りをすることにした。
 雨足は強くなり、軒先に隠れても少しだけ肩先が濡れてしまう。

(ちょっと冷えてきて寒い……)

 まだ寒い季節だからか、ぶるりと身体が震えた。
 少しだけ薄暗い路地裏は、ちょうどパン屋さんの裏側だったのか、甘いミルクとバターの香りがふんわりと漂っている。

「メアリー」

 名前を呼ばれたかと思うと、隣に立つ彼から肩を抱き寄せられた。

(演技なのに、やりすぎですから……!!!)

「こうしてたら、寒くないだろう?」

 綺麗な顔立ちの青年の笑顔は、破壊力が強すぎる。

(やっぱり天然タラシ属性ね、間違いない……!)

「そうだメアリー、これが欲しそうだったから、君にプレゼントだ」

 そう言うと、彼は小包の中から何かを取り出した。

「これは……!」

 なんとそれは、先ほど露天に売ってあった、おもちゃのハートのペンダントだった。
 緑の宝石を真似たそれは、きらきらと光っている。

「契約にありませんし、チョコ以外のものを受け取るわけには……」

 嬉しい反面、少しだけ困ってしまう。

「契約とは違う……か。だったら――」

 そう言うと、彼は私に顔を近づけてきた。

(まさか――!)

 この間、キスを――しかも深い口づけをされたことを思い出す。

「だ、ダメです、アルベルト様!」

 私はついつい叫んだ。
 キスされると思ったら、彼は私の首筋に顔を埋めてきた。

(え!?)

 と思いきや、彼の唇が私の肌を吸い始めたのだった。

「っあっ……! ダメ……!」

 だが、身体は正直なもので――角度を何度か変えられながら、しかもちゅっと音を立てられながら、肌の薄い部分を何か所も吸われてしまうと、ぴくんぴくんと反応してしまう。

「んっ……ゃあっ……っ……!」

「メアリー」

 いつの間にか、ワンピースの上の釦を少し外されて、彼の唇が段々と首から胸元へと降りてくるではないか――。

 気づけば、彼の頭が胸元に見える。
 
 そうして、金色の髪で隠れて見えない、胸の谷間の部分をひときわ強く吸われてしまい、ひときわ大きな声を上げてしまったのだった。

「ひゃあんっ……!」

 これ以上されたら、どうにかなってしまいそうだ。

 そんなことを思っていると――。

「これ以上は、俺も我慢が出来そうにないな……」

 そう言って、彼の唇が肌から離れていった。
 慣れない出来事に、私ははあはあと、走った後のようになってしまっている。

「そのペンダントのお代は君の愛らしい声ということで」

 彼のエメラルドのような瞳は悪戯っぽく笑っていた。

「いつか玩具じゃなくて、本物を買ってあげるね、メアリー」
 
(こ、この人……好青年に見えて、遊び人なのかもしれない……! チョコ以外のものは受け取ったり、何かしてもらわないように気をつけないと……!)

 ドキドキした胸を落ち着けながら、私はそう固く誓ったのだった。


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