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おまけ「どれだけ離れたとしても」
2※
しおりを挟む誕生パーティが終わり、馬車に乗ってギルフォードと一緒に新築の屋敷へと向かっていた。
ふかふかの座席の上、隣に座るギルフォードがふんぞり返っているように見えたのだが、大きな手で両目を隠して「はあ」っと大きな息を吐いているではないか。
「ギル、どうしたの? 疲れてるの?」
「ああ、最近のイベントの中じゃあ、一番神経使ったんでな……」
「全然、そんな風には見えなかったわ……そもそも、皆顔見知りじゃない?」
「お前の弟とはほとんど顔を合わせたことはなかったからな」
「言われてみれば、そうね……それと……」
先ほどの、ギルフォードと母アメリアにだけ分かる会話のやりとりがあったのが気になっていたのだった。
(お母様とギルフォードだって昔馴染みなわけだし……)
何を心配しているのだと思うかもしれないが――母アメリアはもう四十半ばだが、活き活きしていて明るくて、見た目だけならまだ三十代と言っても過言ではない。事業も成功していて、女性から見ても魅力的な女性なのだ。
ギルフォードのことについて、自分の知らないことを母が知っているということは、なんだかヤキモキしてしまうのだ。
(私ったら、お母様相手に……なんて心の狭い女なの……)
一人で勝手に蒼くなったり白くなったりしていると――。
「ルイーズ」
声をかけてきたギルフォードの方へと視線を移すと、いつの間にかこちらの方をじっと見てきていた。
彼の鋭い瞳に射貫かれて、ドキンと心臓が跳ね上がる。
「お前のことだから、また妙な思い込みをしているんだろうから先に言っておく」
「え?」
「お前が親父さんのことを好きだから黙っておきたかったが――俺はお前の親父さんが苦手なんだよ……昔っから目の敵にされてる」
――思いがけない話に、私は眼を真ん丸に見開いてしまった。
「え? ええっ!? 苦手なの? 目の敵?」
「ああ、それも昔っからな……。ルイーズ、勘違いはするなよ、苦手なだけで嫌いじゃない。どっちかというと尊敬している。……で、そのことは、お前の母親のフォード夫人はずっと知っている。だから、今も気を利かせて、さっさと帰れって言ってくれたんだよ」
そうして、ギルフォードが続ける。
「お前の親父さんは俺の親父と違って善人だ。色々と生真面目すぎるんだよ。そもそもが俺とウマが合わないところもある」
「その……確かにお父様は生真面目だけれど……そもそも、軍を退役してからしばらくは働かずに何もせずに過ごしていたそうよ? どちらかと言えば不真面目なのかも?」
「親父さんの、そういうところだよ。生真面目だから一人で色々と悩みを抱え込んで――その場で動けなくなったんだろうさ――そういう期間がある人間を俺は不真面目だとは思わない。俺もお前の親父さんと同じ立場だったら、同じような反応だったかもしれないしな」
「え?」
ギルフォードは自分以上の情報を持っているような気がしたが、それ以上は彼が何も言わないので深い事情は聞かないでおくことにする。
「ギルが言いたいことが分かるようで分からないような気もするけれど……でも、お父様が生真面目だとギルと相性が悪くなるの? あ、そうだ……さっきの話に戻るけれど、ギルのお父様もいつも笑っていて、アルベルト兄さんもお父様によく似ていて素敵な人だわ」
「はあ……あの二人の上っ面に騙されるなよ、ルイーズ。お前がおかしな男に騙されずにいてくれて本当に良かったよ……お前の親父さんには感謝したい」
「もう、どういう意味よ」
「そのままの意味だよ」
少しだけ頬を膨らませた私だったけれど――。
「そうだ、ギル」
「どうした?」
これだけは言っておかないといけないと思うことを付け加える。
「……ギルも不真面目なところはあるけれど、本当はすごく真面目な人だって知ってるわ――お母様のさっきの話じゃないけれど、離れていた間もずっと私のことを好きでいてくれたんだって思ったら、すごく嬉しいし……離れていた分、絆が深まった気がするわ」
ちょっと照れくさくて、自分でも顔が赤らんでいくのが分かる。
「そうか」
意外と素っ気ない返事だなと思って少しだけ――無言になったギルフォードの方へと視線を移すと――。
(ギルも顔が真っ赤……)
なんだか恥ずかしくなってしまって俯いていると、ふと気になることが浮かぶ。
「そういえば――お父様も理由もなくギルのことを目の敵にしているのは、どうしてなの?」
せっかくだから家族皆で仲良くなって欲しいと思うのは、私のワガママなのだろうか?
すると――私のブラウンの髪にギルフォードの長い指が通った後、何度も梳いてくるではないか――。
「ギル……ええっと……」
ふっと目の前に陰が差したかと思うと、甘いケーキの香りが鼻腔をくすぐると同時に、唇に柔らかなものを感じた。
「ルイーズ……」
「あっ……ギルっ……んっ……」
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