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ギルフォードside(過去〜現在)

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「え?」

 そう言って、彼女に差し出すと、いつになく素直に口を開いた。
 差し出すと、うっかり彼女が彼の指ごとぱくりと食んだ。

「あ、ごめんなさい、ギル、指まで……」

 ほくほくとチョコを頬張る彼女を見て、ギルフォードの理性がどこかに吹っ飛んだ。
 気づけば、彼女の唇の端にそっと口づけていた。彼女の肌が柔らかくて、堪らない。
 口づけたら、どんなに幸せになれるだろう。

「あ、あの……」

「あ、悪ぃ……」

 しばらくだんまりになった。
 はっとした彼女が立ち上がる。

「ギル、じゃあ、私の用事はすんだから……」

 彼女はパタパタと走り去っていったのだった。

(やらかした……)

 少しだけ焦ったが、彼女の反応は悪くなかったように思う。
 箱と一緒に入っていたカードを開く。
 几帳面な字で、丁寧に想いが綴られていた。

『親愛なるギルへ これから先もずっと貴方の隣で、貴方に菓子を作って過ごせたら ルイーズ』

(……これから先もずっと……)

 ギルフォードは天にも昇る想いがした。

(ルイーズも俺のことをきっと……)

 彼女なりの自分への愛の告白だと思った。
 父に頼んでお金を借りて、宝石商に向かって、自分の瞳の色と同じサファイアの婚約指輪を作ってもらった。

(ルイーズ、喜ぶだろうか?)
 
 少年と青年の過渡期にあるギルフォードは浮かれきっていた。
 だけど、この時実は、進路で揺れているルイーズは情緒不安定だったのだ。

(ルイーズもきっと俺のことを好きで間違いない)

 どう伝えたら、彼女は喜ぶだろうか。
 いつも通りの調子でいけば、優しくてしっかり者のルイーズなら、自分の気持ちを受け入れてくれるはずだ……。
 そうは思う反面、フラれるのが怖くて、取り巻き達の力を借りることにした。
 そうして皆が見守る中、彼女に返事をすることにしたのだ。

「ルイーズ・フォード。お前みたいな菓子作りに励む侯爵令嬢じゃあ、誰も嫁にもらってはくれないだろうな……」

 まさか、普段なら許してもらえる、その一言が、ギリギリで揺れていた彼女の心を崩してしまうなんて、思いもしなかったのだ。

「箱の中身が何か知らないけれど、要らないわ」

 ルイーズの様子がおかしかった。

「お父様の稼いだお金で贈り物だなんて、格好悪いわ! 私はちゃんと自立している男性が好きで……!! 別にギルのことなんて、これっぽっちも好きじゃないんだから!!」

 走り去る彼女を見て、自分は何かを間違えたのだとギルフォードは気づく。

「ルイーズ……」

 それから何度か会いに行ったが、ルイーズが顔を合わせてくれることはなかった。

(嫌われた……)

 せめて、皆の前でなく二人きりで言えてたら、結果は違ったのだろうか?
 全て後の祭りである。

(俺が他のやつらの力を借りて、どうにかしようとしたから、自立したルイーズには子どもに見えたのか……?)

 ずっと続くと思っていた関係性が崩れるのなんて一瞬だったのだ。

 自分の全てを相手が受け入れてくれるはずだと――ずっと自分は彼女の優しさに甘えていたのだと、ギルフォードは気づいたのだった。


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