【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者

おうぎまちこ(あきたこまち)

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 しばらく実家に滞在することになった。もちろん職場にも一人で通った。
 私の父は喜んでいたけれど、母は心配していた。

 パーティから数日経った、とある休日のこと。
 外ではシトシトと雨が降っている。
 私はベッドの上で枕を抱えて突っ伏していた。

(気持ちが上がらない……)

 周囲の目を気にしてだとか、偉そうだとか、他人の力を借りているだとか、ギルを責めたが――。

(昔から、それは私の方で……)

 彼はちゃんと自立した大人になって帰ってきたのだ。
 だけれど、私はと言えば、仕事にこそ就いているものの、さして昔と行動が変わっていない。
 仕事をしたいだとか、好きな人と結婚したいだとか、ワガママを言っているだけだ。
 挙句、大人になっても、傷つくのが怖くて、ギルを避けて逃げ出してしまった。
 彼があれだけ真摯に妻にするのは変わらないと言ってくれたのに……。

 家同士の円満な関係のためにも、お互いに愛がなかったとしても、ギルフォードのように割り切って結婚を決めたら良いだけなのだ。

 なのに――心のどこかで、彼の方も自分を愛してくれていたらと思ってしまっている。
 別の女性を胸に秘めるのではなくて……。
 自分がずっと彼のことを想っていたように、彼も私のことを好きでいてくれたのなら――と。

(私だけ成長出来ていない。こんな子どもの私じゃあ、彼には釣り合わない)

 悩んでいると、コンコンと音が鳴った。
 部屋の中に母が入ってくる。

「ルイーズ、ギル君、今日も屋敷に来てるけれど、会わないの?」

「お母様」

 母は仕事を持っているからか、年齢のわりに若々しい。今はブラウンの髪を上品に結い上げていた。
 父に似て、くよくよしがちな私とは違って、母は明るくて魅力的な女性だ。一番最初に生まれた私とは姉妹のような関係でもある。

(ギル、今日も来てくれてるのに……)

 ベッドに寝込む私のそばに、母が腰かけてきた。

「マリッジ・ブルーというやつかしら?」

「分からない……」

 私はぽつぽつと謝罪した。

「お母様、ごめんなさい」

「どうしたの、ルイーズ?」

 しばらく黙ったが、思い切って悩みを打ち明けた。

「……結婚する予定の人に、本当はずっと好きで、忘れられない女性がいたんだとしたら……お母様ならどうする?」

 母は目をぱちくりさせている。

「本当はプロポーズする予定だった人が別にいて、なりゆきで自分と結婚することになったんだとしたら……」

 ますます母の目がぱちぱち動いてた。

(……?)

 気を取り直した彼女が、私に問いかけてくる。

「たぶんギル君のことだと思うけれど……ルイーズは彼のことが好き?」

 ふいっと顔をそらした。
 だんまりになった私のことを、母は黙って見ている。
 ぽつぽつと続けた。

「ギル、婚約指輪を二つ準備していたの……というよりも、本当はサファイアの別の婚約指輪があるんだけど、私がもらったのはエメラルドで……ギルにはサファイアの婚約指輪を渡したい相手がいて、その女性のことがずっと好きだったらしくて」

 私は続ける。

「本当は私と再会した日は、サファイアの婚約指輪をその女性に渡したくて、薔薇を持って近所をうろついていたらしくて……だったら、私は間女で……」

「婚約指輪を二つ? ギル君が、サファイアの婚約指輪を、ルイーズ以外の女性に?」

 母が不思議そうに首を傾げていた。
 しばらく、むむむと考えている様子だったが、何か閃いたようだった。
 
「お母様、分かっちゃったわ! 学生時代、バレンタインの後から、あなたたちの様子がおかしかったわね? 何かを渡してこようとしたのを断ったって言ってなかった? ルイーズも思春期だったし、お母様には詳しくは教えてくれなかったけれど」

 こくんと頷いた。
 母はニコニコ笑いながら続ける。

「だったら、話は単純よ。ルイーズはお父様に似て、好きな相手に対しては視野が狭くて、怖がりなんだものね。まあ、そこも可愛いのだけど……」

「お母様?」

 彼女は太陽のように微笑んだ。

「お母様が保証するわ。大丈夫、ちゃんとギル君と話し合っていらっしゃい」



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