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本編
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しおりを挟むギルフォードには別にプロポーズする相手がいたのだと知り、ショックで社交パーティの会場を抜け出した。
冷たい夜風が頬を嬲ってくる。
肺が潰れそうだったが、その場を駆けた。全力疾走なんて、父から見合いを勧められて以来だ。
「ルイーズ!」
だけど、すぐに運動神経の良いギルフォードに追いつかれてしまう。
後ろから抱きしめられた。
「もう――学生時代みたいに、お前を逃す俺じゃない」
耳朶に熱を帯びた彼の吐息がかかる。
「――お前がなんと言おうと、勝手な婚約解消は俺は認めない。婚約破棄もな」
想定外の発言に、私は目を見開いてしまう。
「さっき言った通り、貴方には他に相応しい女性が……」
「俺はお前との結婚を決めたんだ。お前の勝手は許さない」
命令口調だが、懇願するような声音だった。
「なんで、昔から……ギルの方こそ勝手なことばっかり……」
彼は昔から、家族や仲間思いだった。
家族同然に育った幼馴染の自分に情けをかけて結婚を決めたのだろうか。
「説明しろ、ルイーズ。お前は何をそんなに気にしてる?」
「それは……」
ぎゅっと胸が苦しくなる。
(怖くて、聞けない……。『本当は、私以外にプロポーズを考えていた相手がいるの? 幼馴染が行き遅れているのを見かねて結婚を決めたの?』なんて……。もしかしたら、ギルフォードを振った女性も、本当はプロポーズを待っていたのかもしれない)
自分が傷つくのは嫌だ。だけど、それ以上に誰かを傷付けるのも嫌だ。
本心以外の言葉しか出てこない。
「学生時代も言ったでしょう? 嫌だったのよ、昔から自分の周りに人を侍らせて、偉そうに他人の力を借りて過ごしている貴方が……。私以外の女性にも、指輪だってドレスだって贈ってるんでしょう。お情けで結婚を決められるぐらいなら、ずっと独身の方が良い」
もう婚約した後なのに、自分でも駄々をこねていたのは分かっていた。
ギルフォードはしばらく黙ったままだった。
「理由は本当にそれだけか?」
「……ええ」
一瞬だけ彼の腕の力が強くなった後、緩んだ。
「そうか、分かった。説明したくないなら、無理には聞かない。お前が納得しないなら、しばらく実家に帰ってもらって距離を置いても良い。好きなだけ、俺に罵声を浴びせろ。だが――」
彼が続ける。
「お前は俺の妻になる。それは確定事項だ」
力強く言い切られた。
昔と変わらない――いいや、昔以上に強い口調。
「ギル……」
「実家まで送る。あと、お前が何を勘違いしているのか知らないが――」
俯く私に続けた。
「帰国してから、他の女に何か贈り物を送ったりはしていない。俺にはお前だけだ」
彼はそう言ってくれるのに、顔を上げることが出来ない。
(こんなにギルは大人に成長しているのに、私は……)
馬車の中、無言のまま帰路についたのだった。
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