【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者

本編

13

　ギルフォードの口がうまく……私は彼の新居にしばらく住み込んで、そこから職場に通うことになっていた。

（まさか『私たちも婚約期間に一緒に住んでましたよ！』とかなんとか言って、お母様がお父様を説得するなんて……。お父様に「ギルと別れた」と話す日を想像するだけで気が重い）

　考え込んでいると、ギルフォードの屋敷に到着する。

「ほら、昨日案内してなかったが、お前の好きなものを準備してある」

　連れて行かれたのは――。

「広いわね！　最新型のオーブンまである……！」

　なんと調理場だったのだ。
　菓子工房に負けず劣らず、菓子作りのための貴重な材料や道具がずらりと並んでいる。

（チョコも……）

　カカオ豆から、カカオマス、スイートチョコにミルクチョコまで色々な種類が揃えてある。

「すごいだろう？　お前が良いなら、ここで飽きることなく菓子を作り続けたら……」
「ああっ！」

　思わず叫んだ。

「どうした！？」

「ほら、ギル、水道の近くに置いてるから、蝋粉ブルームが出ちゃってるわ、こっちの涼しい場所に置きましょう。あ、そういえば、何か言った？」

「……なんでもない」

　その晩は、ギルフォードのことを忘れて、調理場の色々を確認して回ったのだった。