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本編

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 連れ出された後、到着したのは衣装室だった。
 仕立て屋もかくやと言わんばかりのワードローブに、驚嘆してしまった。

(顔合わせ用のドレスを選ぶとか、ギルが言いはじめて……なぜか途中まで一緒にいた使用人はいなくなっちゃうし……)

 ちょうどスレンダーな青いドレスに着替えた際、扉の音がガチャリと聴こえる。

「ルイーズ、着替えたか? どうせだから、脱がせやすいのにしておけよ」

「な……!」

 羞恥で顔が赤らんだ。

「ちょっと、勝手に開けないで!」

「俺は気が短いんだよ……馬子にも衣裳とは、このことだな。胸が空いているから、後で調整してもらおう」

 彼の言った通り、ドレスの胸元が空いて、少しだけ寂しかった。

「さっきまで着ていたドレス、全体的に地味なんだよ。せっかくお袋さんが明るい色のドレスを選んでも着ないだろうが?」

 図星で、ぐっと言葉に詰まる。

「……ドレス代、ちゃんと払うから」

「要らない。そもそも、ここに準備してあるドレスや装飾品の類は、全部お前の――」

 ギルフォードが口ごもった。

(何なの……?)

 ――まさか。

「ギル! おばさまの店のものだからって、衣服代をなあなあにしたんじゃ……」

「してねぇよ! お前の中で俺はいつまで、学生時代のままなんだよ!」

 ばさりと別の衣服を渡される。
 見れば黒いワンピースに白いエプロン――メイド服ではないか。
 とんでもないものを渡され、じっとりとした瞳で見つめた。

「……ギルにこんな趣味があるなんて思わなかったわ……」

「俺に変な趣味をつけてくるんじゃねぇ! お前の働いている菓子工房の制服だろうが? 旧くなってるから、お前の分だけ飾りを豪奢に作ってやった」

 彼の言う通り、白いエプロンのフリルがやけに豪華だった。

「私が店で着てる制服が旧くなってきてるって、なんでギルが知ってるの? 確かにオーナーは、貴方のおばさんだけど……ありがとう……」

 やれやれと言った調子で、ギルフォードが続ける。

「ルイーズ、今度はちゃんと受け取ってくれたな?」

「え? ああ……」

 バレンタインの返事のことだろう。

「お前はな、着飾りさえすれば綺麗なんだよ」

 その時、彼が私の左手を掴んできた。

「ギル、なんなの……っ……」

 薬指にはエメラルドの指輪。

 ギルフォードが告げてくる。

「俺に婚約者役を頼むなら……自分には身体しかないみたいに卑屈な態度はとるな」

 彼の柔らかな唇が、指にちゅっと触れた。

「身体を報酬にした俺も悪かったが……他のやつが何と言おうと、お前の魅力は、小さい頃からずっと……俺は……俺だけは知っているから」

「ギル……」

 いつになく真摯な声音だ。

(たぶん、嘘じゃない。だけど、じゃあ、なんで皆の前で振ったの?)

 胸がきゅうっと疼く。

(嘘の一環だって分かってるのに……演技だって忘れそうになる……)

 だけど、どこかで淡い期待が湧く。

(本当の婚約者だって勘違いしそう)

 そんなのダメなのに……。

 ――離れた時、寂しくなって、傷つくのは自分だって分かっているのに――。


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