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第3章 別れと旅立ち――白豚と龍帝――
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しおりを挟む陽ざしが熱くて暑い。
畑作業の後、川に行きたいと話していた天狼がなかなか帰ってこないので、川へと向かう。
(私も喉が渇いていたから)
言い訳をしながら川へと向かう。
すると、天狼が何やら誰かと会話をしていた。
「天狼様、蘭花様にはまだ話さないのですか?」
蘭花は木陰に身を潜める。
聞いたことのない声だ。
「ああ、白虎よ」
(――ビャッコ?)
天狼が白虎と呼んでいるのは、白猫の娘々だった。
(娘々がビャッコ? どうして、猫が話して?)
混乱している蘭花の元に、追い打ちをかけるかのような会話が耳に届く。
「天狼様よ、まだ花嫁を憎いと、復讐をしたいと申されるというのですか!?」
――花嫁を憎い? 復讐?
憎い。
憎いとは、憎悪の念。
憎いというのは、すなわち――。
そうして、復讐。
「ああ、そうだな。幼い頃に占われ、そうして命運が変わってしまったことを、いまだに――」
天狼の醒めたような声。
(占う。命運が変わる……)
――彼が話しているのは、自分のことで間違いないだろう。
――これ以上は聴いてはいけない。
だが、川のせせらぎの中、同居人の声を蘭花は耳聡く拾ってしまった。
「――花嫁のことを恨んでいるよ。きっと一生な……」
思わず彼女はその場を駆けだしたのだった。
※※※
天狼が自分のことを恨んでいる。
突然現れた髭面だった男。
自分の体質について知っているからと、なんの疑いもなく招き入れてしまった自分。
騙されたというよりも、自分がバカだったのだ。
川から畑に続く道を走る。
その時、道の端からぬっと人影が現れた。
考え事をしていたせいか、ばっと手首を掴まれる。
「蘭花、借金の期日が間近だ。いよいよ僕の花嫁になってもらうよ」
――現れたのは白豚――もとい地方領主の息子・桂香だった。
「離しなさい、桂香! 貴方の妻になる気は毛頭ないのよ!」
いつもなら怯む気弱な彼だが、今日は違った。
「借金を踏み倒すなんて、そうはいかない」
そうして、なぜかいつも以上に彼の声にぞぞぞと肌が粟立った。
(何? 桂香、様子が……?)
まるまると太った彼の瞳を見ていると、だんだん意識が朦朧としてくる。
(私、いったいどうして……?)
「さあ、今から城に言って、僕の花嫁になっておくれ、蘭花」
――蘭花は桂香の腕の中、眠りに堕ちてしまったのだった。
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