18 / 31
第2章 同居人との距離――咬――
18
しおりを挟むまだ、そんなに一緒に過ごした時間は長いとは言えない。
けれども、母を失って孤独だった蘭花の元に訪れて、彼女に関心を持ってくれた。
(死なれたら、さすがに目覚めが悪いわ!)
蘭花も腰を落とし、天狼の肩に手を添える。
しばらくうずくまっていた彼だったが、彼女にちらりと視線を送ってくる。
「良かった、天狼……」
彼女はほっとした。
「蘭花、私の心配よりも、かの妖の心配をしてやった方がいい」
彼は不敵に微笑んだ。
「え? どういう意味なの?」
意味を確かめるべく、彼女がくるりと妖の方へと振り返る。
すると――。
『ぎぎぃ……人間……お前、その血は……!』
咬という名の妖の頭部は、苦しそうに地面をのたうち回る。
蘭花を地面に降ろした天狼は、呪言を唱え始めた。
『まさか、お前は――龍て……』
何か言いかけた咬だたったが、それよりも早く、身体が炎上しはじめる。
「な、何が起こっているの……妖が燃えて……!!」
肉があぶられる匂いが鼻腔をついてきた。
炎は天高く舞い上がっていく。
煙が風でごうごうと揺らいだ。
そうして――。
妖は、跡形もなく消え去ったのだった。
しばらく静寂が二人を包み込む。
「さて、蘭花よ、咬を祓うために華麗な演技をしていた私のことを怒るんじゃぁないぞ。いいか――ぐえっ……!」
途中まで言いかけた天狼だったが――。
「この馬鹿!!! 大馬鹿!!!」
「なんだ? あまりにも見事な演技に花嫁も見事にだまされたのだろう? さすが私――」
「死んだと思って……」
「ん?」
彼女の声は震えていた。
そのことに、彼も気づいたようだ。
「心配したじゃない……!!! この馬鹿!! うぬぼれや!!! 馬鹿馬鹿馬鹿!!」
――座り込む彼の身体に、蘭花が抱き着いたのだった。
「おやおや、想定外の反応だったな……」
天狼は、蘭花に抱き着かれたまま、しばらく呆然としていた。
涙をほろほろと零す蘭花の背を、彼はそっと抱き寄せる。
「悪かったな、蘭花……」
いつになく真摯な声音の天狼に、蘭花はぴくんと反応した。
彼の真剣な碧の瞳と出会った彼女の心臓が大きく高鳴る。
(あ……)
気をとりなおした彼女は、ぱっと相手の身体から離れ、わたわたと告げた。
「え、えっと……あの……そ、そうだ、噛まれたところの手当てをするから! ちょっと見せなさいよ」
そういうと、蘭花は天狼の上衣をするりと脱がせる。
0
お気に入りに追加
315
あなたにおすすめの小説
大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。
水鏡あかり
恋愛
姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。
真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。
しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。
主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。
〈短編版〉騎士団長との淫らな秘め事~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~
二階堂まや
恋愛
王国の第三王女ルイーセは、女きょうだいばかりの環境で育ったせいで男が苦手であった。そんな彼女は王立騎士団長のウェンデと結婚するが、逞しく威風堂々とした風貌の彼ともどう接したら良いか分からず、遠慮のある関係が続いていた。
そんなある日、ルイーセは森に散歩に行き、ウェンデが放尿している姿を偶然目撃してしまう。そしてそれは、彼女にとって性の目覚めのきっかけとなってしまったのだった。
+性的に目覚めたヒロインを器の大きい旦那様(騎士団長)が全面協力して最終的にらぶえっちするというエロに振り切った作品なので、気軽にお楽しみいただければと思います。
腹黒伯爵の甘く淫らな策謀
茂栖 もす
恋愛
私、アスティア・オースティンは夢を見た。
幼い頃過ごした男の子───レイディックと過ごした在りし日の甘い出来事を。
けれど夢から覚めた私の眼前には、見知らぬ男性が居て───そのまま私は、純潔を奪われてしまった。
それからすぐ、私はレイディックと再会する。
美しい青年に成長したレイディックは、もう病弱だった薄幸の少年ではなかった。
『アスティア、大丈夫、僕が全部上書きしてあげる』
そう言って強姦された私に、レイディックは手を伸ばす。甘く優しいその声は、まるで媚薬のようで、私は抗うことができず…………。
※R−18部分には、♪が付きます。
※他サイトにも重複投稿しています。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
【R18】はにかみ赤ずきんは意地悪狼にトロトロにとかされる
梗子
恋愛
森の入り口の村に住むクレアは、子どもたちに読み書きを教えて暮らしているごく普通の村娘
そんなクレアは誰にも言えない秘密を抱えていた
それは狼男の恋人のロイドがいるということー
ある日、村の若者との縁談を勧められるが、そのことがロイドに知られてしまう。
嫉妬に狂ったロイドはクレアを押し倒して…
※★にR18シーンがあります
※若干無理矢理描写があります
【R18】抱いてくださらないのなら、今宵、私から襲うまでです
みちょこ
恋愛
グレンデール帝国の皇帝であるレイバードと夫婦となってから二年。シルヴァナは愛する夫に一度も抱かれたことは無かった。
遠回しに結ばれたいと伝えてみても、まだ早いと断られるばかり。心だけでなく身体も愛して欲しい、日々そう願っていたシルヴァナは、十五歳になった誕生日に──
※この作品はムーンライトノベル様でも公開中です。
【R18】軍人彼氏の秘密〜可愛い大型犬だと思っていた恋人は、獰猛な獣でした〜
レイラ
恋愛
王城で事務員として働くユフェは、軍部の精鋭、フレッドに大変懐かれている。今日も今日とて寝癖を直してやったり、ほつれた制服を修繕してやったり。こんなにも尻尾を振って追いかけてくるなんて、絶対私の事好きだよね?絆されるようにして付き合って知る、彼の本性とは…
◆ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる