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第2章 同居人との距離――咬――

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「我が花嫁にしては、やけにしおらしいじゃないか――」


 凜と鈴のような青年の声が聴こえた。

 蛇のような生き物のくぐもったような声と、肉を断つ音が響く。
 ずるんと、蘭花の脚に巻き付いていた蛇のような生き物の身体がバラバラになり、川の中にボトボトと落下していった。
 同時に、彼女の身体も地面に落下する。

「きゃっ……!」

(地面に叩きつけられる……!)

 そう思った瞬間――。

「間に合ったな――こうに好かれるとは、我が花嫁は相変わらず人気者だ」

 ふわりと蘭花の身体が浮く。

 冷えた身体に相手の体温が届いた。

「天狼……!」

 ――天狼の腕の中で横抱きにされていたのだった。

「待たせたな」

 彼の綺麗な笑顔が間近にあって、蘭花は安心すると同時に、心臓がドキンと高鳴った。

(い、今のは安心したからであって……決して、この変態にときめいたわけじゃ……!)

『邪魔をするな……人間!』

 頭部だけになった妖が、蘭花をかばうようにして立つ天狼の肩に、疾風のごとく襲いかかった。

「ぐっ……!」

「天狼……!」

 がぶりに肉に牙が刺さる音が聴こえ、蘭花は小さな悲鳴を上げる。

 どさりと天狼は跪く。

 彼の幅広の右肩からは血が流れているではないか。

「天狼! 天狼、しっかりして――!」

 彼女は彼の腕をすり抜けて地面に降りたつ。
 天狼は跪いたまま、微動だにしなくなった。

「天狼! 天狼ったら!!」

 だが、彼は何も答えてくれない。

(どうしよう? 怪に噛まれて天狼が死んでしまう?)

 
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