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 私の護衛対象はとても綺麗な人だ。
 さらさらとしたラベンダーアッシュの髪に、煌めく柘榴石ガーネットのような瞳。縁取る長い睫毛が、ふるりと繊細に瞬く。
 左目の下には色香のある泣き黒子。
 ティーカップを口に運ぶ所作は、どんな令嬢よりも優雅だ。

 一言で表すなら完全美。
 例えるなら気高き紫の薔薇のような――。
 どんな女性たちよりも女性らしく美しい。

 そう、けれどもこの御方は――。

「ヒルデ王子! 午後の紅茶を飲み終わったのでしたら、鏡は見ずに執務に集中してほしいです!」

「エレナったら、相変わらず、きゃんきゃん吼える子犬みたいで可愛いんだから! あと、王子はやめてちょうだい! アタシのことはヒルデ様と呼んでと言ってるでしょう?」

 ハスキーな声が私の耳をつんざいてくる。
 そう、この人は――第二王子――つまるところ男性なのだけれど、なぜか喋り方が女性なのだ。
 ヒルデブラントという、れっきとした男性名もあらせられる。
 一応、公務中はフロックコートにクラヴァットをつけた男性的な格好をされていた。とはいえ、彼の女性のような美しさを強調させるアイテムに過ぎない。

「ねえ、エレナ。貴女にお願いがあるんだけど。こっちに来てくれない?」
 
 気安い口調でヒルデ様は話しかけてくる。
 彼の座る執務机へと近づくと、シトラスの中性的な香りがふんわりと漂ってきた。

「国で数少ない女騎士達のために、動きやすい制服でもデザインしようかなぁって思ってるところなの。この国ったら、男性用の騎士服しかないでしょう? 胸とか締め付けがきつくなぁい?」

 胸の締め付けだとか、そんな性的な話をされても、ヒルデ様だと気にならない。

「貴女をモデルにしてイメージしたデザインを考えてみたの、見て見て」

「少年のようだと言われる私をモデルにするのは、あまりよろしくないのでは?」

「そう言わずに、ほら、これを見てちょうだい」

 デザイン画を見せられる。

「可愛らしすぎず、洗練されたデザインですね」

「あら、褒めていただけて嬉しいわ」

 男性だけれど女性的な視点を持つヒルデ様。
 女性に優しい政策をいくつも考えられてこられた。娼館落ちも少なくなかった女性達の働き口を拡げたり、男性との賃金の格差を失くそうとしたり、一人で子どもを育てる母親への支援制度だったり……。

(ヒルデ様のおかげで、女騎士達の待遇もかなり改善されている)

 とはいえ、まだまだ国の男女格差は大きい。
 騎士となれば、なおさら男性が就く職業のようなところがある。
 けれども、私が騎士という職業を選んだのには理由があった。

 
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