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「椿様から離れないか!!」
忍と椿の間に割って入ったのは、清一郎だった。
元従者である彼に抱き寄せられて、椿は安堵し、ほっと息を吐く。
「――清一郎……」
清一郎が椿のことをぎゅっと抱きしめながら、相手に対して告げた。
「忍――お前の家が金に困って、椿様の家から金を絞りとろうとしていたことは分かっている」
「それは……」
忍がギリギリと唇を嚙みしめる。
清一郎が挑発するように、ふんと鼻を鳴らした。
「忍、お前の言い訳を聞いてやる――ほら、言ってみろ」
促された忍は、ゆっくりと口を開く。
「猪俣家と婚姻関係になることで屋敷の管理などをどうにかしようとした節はある。だが、なぜか桜庭家だけでなく猪俣家まで没落しはじめてしまった……だから、おかしいと思って調べたんだ。そうしたら、清一郎、お前の藤島造船が裏で噛んでいることが分かった」
「へえ、それで?」
清一郎は自身の髪をかきあげた。対して、忍の顔は鬼のような形相をしていた。
「清一郎……お前は狂っている……昔からそうだった。お前は椿のことになると――」
「忍、お前は良い奴だが、残念なのはそういうところだ――」
「何を……!?」
清一郎が続ける。
「世界の全てがお前に優しいわけじゃあない。今まで泳がせてやっていたのも温情だと思え――さて――残念なことにお前に与えられた猶予は、もうない――」
「は――?」
その時――。
もう夜だというのに、屋敷の中が煌々とした灯りに包まれた。
(何――!??)
庭を見やれば、黒い詰襟の男たちが大勢詰め寄せており、灯りの正体は彼等の持つランプだったのだ。
(邏卒がいつの間にこんな……)
「忍、残念だが、不法侵入と誘拐の現行犯逮捕だ」
清一郎が告げると、邏卒たちが忍を取り押さえはじめた。
「清一郎! 卑怯だぞ! 僕が椿を迎えに来ることを知って、わざと――!」
清一郎は首を横に振った。
「勘違いしないでくれ――猪俣家の金の流出がおかしかったから、邏卒を呼んでいたら、お前がいたに過ぎない――ああ、そうだ――椿様、耳を塞いでくれますか?」
「え?」
急に話を振られた椿は動揺しつつも耳を塞いだ。
清一郎が口を開くと、忍は顔面蒼白になっていった。
(清一郎は忍さんに何を話したの……?)
そうして、連れ出されようとする中、忍が叫んだ。
「椿! そいつは――清一郎は、お前の――!」
だが、彼は邏卒たちに揉みくちゃにされてしまい、最後まで訴えることができなかったのだった。
そうして、清一郎と椿は二人きりになる。
「椿様に何もなくて良かった……」
「清一郎……」
ほっとしたら、椿の瞳に涙が浮かんだ。
しばらくの間、二人でひしと抱きしめ合うと、彼の温もりが暖かくてますます涙が溢れてくる。
「貴女に本当のことをお伝えしたい。良いだろうか?」
清一郎の問いかけに椿は是と頷いたのだった。
忍と椿の間に割って入ったのは、清一郎だった。
元従者である彼に抱き寄せられて、椿は安堵し、ほっと息を吐く。
「――清一郎……」
清一郎が椿のことをぎゅっと抱きしめながら、相手に対して告げた。
「忍――お前の家が金に困って、椿様の家から金を絞りとろうとしていたことは分かっている」
「それは……」
忍がギリギリと唇を嚙みしめる。
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促された忍は、ゆっくりと口を開く。
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「へえ、それで?」
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「清一郎……お前は狂っている……昔からそうだった。お前は椿のことになると――」
「忍、お前は良い奴だが、残念なのはそういうところだ――」
「何を……!?」
清一郎が続ける。
「世界の全てがお前に優しいわけじゃあない。今まで泳がせてやっていたのも温情だと思え――さて――残念なことにお前に与えられた猶予は、もうない――」
「は――?」
その時――。
もう夜だというのに、屋敷の中が煌々とした灯りに包まれた。
(何――!??)
庭を見やれば、黒い詰襟の男たちが大勢詰め寄せており、灯りの正体は彼等の持つランプだったのだ。
(邏卒がいつの間にこんな……)
「忍、残念だが、不法侵入と誘拐の現行犯逮捕だ」
清一郎が告げると、邏卒たちが忍を取り押さえはじめた。
「清一郎! 卑怯だぞ! 僕が椿を迎えに来ることを知って、わざと――!」
清一郎は首を横に振った。
「勘違いしないでくれ――猪俣家の金の流出がおかしかったから、邏卒を呼んでいたら、お前がいたに過ぎない――ああ、そうだ――椿様、耳を塞いでくれますか?」
「え?」
急に話を振られた椿は動揺しつつも耳を塞いだ。
清一郎が口を開くと、忍は顔面蒼白になっていった。
(清一郎は忍さんに何を話したの……?)
そうして、連れ出されようとする中、忍が叫んだ。
「椿! そいつは――清一郎は、お前の――!」
だが、彼は邏卒たちに揉みくちゃにされてしまい、最後まで訴えることができなかったのだった。
そうして、清一郎と椿は二人きりになる。
「椿様に何もなくて良かった……」
「清一郎……」
ほっとしたら、椿の瞳に涙が浮かんだ。
しばらくの間、二人でひしと抱きしめ合うと、彼の温もりが暖かくてますます涙が溢れてくる。
「貴女に本当のことをお伝えしたい。良いだろうか?」
清一郎の問いかけに椿は是と頷いたのだった。
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