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25(ギアスside)
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いよいよ大規模な戦争になった時に、これが遺書になるかもしれないと思って、ひたすらに書き綴った。
最初は全然違う名前の登場人物を書いていたのに、戦争に身を置くようになってからは、自分と彼女の名前で書き綴っていた。
『俺はメイベルのことが好きだったんだな……それにしたってこんな量の小説、さすがに気持ち悪がるかもな……』
とはいえ、自分が死んでしまったら相手の反応も見れないので、ある意味それが救いだった。
そうして、ギアスは戦争の前線に立つことになった。
戦闘中、敵の大将と出くわして、もう死ぬかもしれないと思った時、ふと彼女の言葉が脳裏に浮かんできた。
『これすき、つづき、みたい』
メイベルに読んでもらおうと思って書き溜めていたものが、まだ書き途中だ。
自分が死んだら、誰もその続きを書くことはできない。
そもそも、感情を表に出せない、寡黙で不愛想な幼馴染の彼女を一人残して死ぬわけにはいかない。
そう思うと孤軍奮闘の働きを見せて、結果的にギアスは戦争の英雄となったのだ。
生きて帰ってこれた時、彼女を妻に欲しいと願ったのは自然の流れだった。
また、メイベルの義母と義妹が隣国に情報を漏洩していたことを突き止めたため、王に進言した結果、彼女らは島流しにあってもう自分達の前に現れることもない。
けれども――悲しいことに今度は戦争の後遺症で自分の方が感情をうまく表出できなくなっていた。
だけど、きっと彼女と過ごすことで、また元の自分に戻っていくことだろう。
大人になったギアスは眠るメイベルに囁いた。
「スパイがどうとか、俺が昔書いた話のことをよく覚えていたな。わざと登場人物の真似をしたりして、俺のことを励ましてくれたんだな」
メイベルから「婚約解消宣言」をされて動揺したが、ギアスは途中から気づいていた。
ヒーローから婚約破棄宣言されたヒロイン。だけど本当は二人は両想いで、ヒロインを隣国の女スパイの目から欺くためにヒーローがわざと嘘を吐いていたという話だった。
何パターンか書いていたので、似たような話がいくつかあるのだが、そのうちのいくつかの場面や台詞を使って話してくれていた。
きっと聡い彼女のことだから、1ページ目を拾った段階で気づいていたに違いない。
「愛している、メイベル。今も昔も、お前が俺の心の声を護ってくれる。そんなお前を護ることができるから、俺は生きていられるんだ」
お互いのことを寡黙で不愛想な婚約者だと思っている二人は、互いの心の声を護り護られ合いながら、今宵も幸せな夜を過ごすのだった。
最初は全然違う名前の登場人物を書いていたのに、戦争に身を置くようになってからは、自分と彼女の名前で書き綴っていた。
『俺はメイベルのことが好きだったんだな……それにしたってこんな量の小説、さすがに気持ち悪がるかもな……』
とはいえ、自分が死んでしまったら相手の反応も見れないので、ある意味それが救いだった。
そうして、ギアスは戦争の前線に立つことになった。
戦闘中、敵の大将と出くわして、もう死ぬかもしれないと思った時、ふと彼女の言葉が脳裏に浮かんできた。
『これすき、つづき、みたい』
メイベルに読んでもらおうと思って書き溜めていたものが、まだ書き途中だ。
自分が死んだら、誰もその続きを書くことはできない。
そもそも、感情を表に出せない、寡黙で不愛想な幼馴染の彼女を一人残して死ぬわけにはいかない。
そう思うと孤軍奮闘の働きを見せて、結果的にギアスは戦争の英雄となったのだ。
生きて帰ってこれた時、彼女を妻に欲しいと願ったのは自然の流れだった。
また、メイベルの義母と義妹が隣国に情報を漏洩していたことを突き止めたため、王に進言した結果、彼女らは島流しにあってもう自分達の前に現れることもない。
けれども――悲しいことに今度は戦争の後遺症で自分の方が感情をうまく表出できなくなっていた。
だけど、きっと彼女と過ごすことで、また元の自分に戻っていくことだろう。
大人になったギアスは眠るメイベルに囁いた。
「スパイがどうとか、俺が昔書いた話のことをよく覚えていたな。わざと登場人物の真似をしたりして、俺のことを励ましてくれたんだな」
メイベルから「婚約解消宣言」をされて動揺したが、ギアスは途中から気づいていた。
ヒーローから婚約破棄宣言されたヒロイン。だけど本当は二人は両想いで、ヒロインを隣国の女スパイの目から欺くためにヒーローがわざと嘘を吐いていたという話だった。
何パターンか書いていたので、似たような話がいくつかあるのだが、そのうちのいくつかの場面や台詞を使って話してくれていた。
きっと聡い彼女のことだから、1ページ目を拾った段階で気づいていたに違いない。
「愛している、メイベル。今も昔も、お前が俺の心の声を護ってくれる。そんなお前を護ることができるから、俺は生きていられるんだ」
お互いのことを寡黙で不愛想な婚約者だと思っている二人は、互いの心の声を護り護られ合いながら、今宵も幸せな夜を過ごすのだった。
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