【R18】寡黙で不愛想な婚約者の心の声はケダモノ

24（ギアスside）

　侯爵家の次男であるギアスには、寡黙で不愛想な幼馴染がいる。
　三歳年下のメイベル姫の護衛を命じられた時、正直そんな女の子の相手をするのは嫌だった。

（ちぇっ、俺ばっかり、嫡男じゃないからってハズレだな……）

　少年時代のギアスは物語を考えたりするのが好きだった。母はそれを褒めてくれた。だけれど母は弟を産む際に死んでしまった。物語を考えるなんて、そんな得にならないことはやめろと父親から非難されて、身体能力が高いからと、無理やり騎士学校に入れられたのだ。
　そうして、騎士学校をのらりくらりと過ごしていた矢先、メイベル姫の護衛騎士になることが決まったのだ。

『はじめまして、メイベル姫』

『…………』

　母親似の美少女だが、ほとんど何も喋ってはくれなかった。にこりとも笑わない。
　そんなある時、彼女は彼が書き溜めていた紙を拾って読んでいた。

「返せよ！」

　勢いよく奪うと、メイベルは怒りもせずに人形のようにこちらを見上げてくるだけだった。

「なんだよ、おかしな話ばっかり書いて、頭がおかしいって思ってるんだろ！？」

　すると――

「これ、とっても、おもしろい」

「え？」

「これすき、つづき、みたい」

　全然喋らなかったはずなのに……

（こいつ、まるで……）

　――自分の心の声を拾ってくれたみたいで……

　続きが読みたいと言われて以来、メイベルに物語を聞かせるのが日常になった。
　彼女に話すと何でも喜んでくれて、それからは心が満たされるようになった。
　それに、どうやらメイベルは継母や義妹たちからの陰湿ないじめを受けているせいで、寡黙で不愛想なようなのだ。

（俺に力があれば、メイベルをもっとちゃんと護ってやれたのかな……）

　騎士になりたくはなかったけれど、それからは本腰を入れて剣を学んだら、騎士学校を首席で卒業することになったのだ。
　その頃には、寡黙で不愛想なメイベルはギアスにだけは心を開いてくれていた。

『なんだろう、悪い気はしないな……』

　けれども、数年前、隣国との争いは激化して、辺境の地を守るように言われて、彼女の護衛からは外れることになった。
　寂しかったけれど、何か書いていたら落ち着くからと思って、防衛に当たっていない間はずっと何かを書いていた。