【R18】寡黙で不愛想な婚約者の心の声はケダモノ

おうぎまちこ(あきたこまち)

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 ギアスの手がピタリと止まった。

「どうか、一人で悪者になろうとしないでください……!」

「メイベル、何を言って……?」

 そうして、決意の眼差しを彼に向けて、凛とした声で告げた。

「あなたに協力致します、そうしてあなたを自由にしてみせます」

 ギアスが瞠目した。

「何を、だ……」

「あの文書についてです」

 キリリとした瞳を向けると、ギアスが絶句した。

「なっ……何を馬鹿なことを……! メイベル、第一王女のお前にあんな真似は……」

 なぜか目の前の彼は、赤くなったり青くなったりしている。
 そこで得心がいった。

(やはり、隣国の敵を炙りだすための囮作戦なのね……)

 もしかすると、今、この部屋に私が来ているところだって、敵は察知しているのかもしれないのだ。

「いいえ、ギアス、私はこの国の王女メイベル・オーギュスト。これまで役に立たない王女だと言われてきましたが、国のため、覚悟を決めます」

 ――何よりも貴方のためだとは敢えて言わなかった。
 ギアスと国のために役立てることがあるのなら協力したい。
 そう思って告げたけれど、彼がなぜか少しだけ寂しそうに見えるのは、どうしてだろうか。

「メイベル、そうか、君という人は……。俺との婚姻も国のため……そうか、そうだな……」

 なぜか掌で両眼を隠している。
 しばらくすると乾いた笑みを零した後、いつものキリリとした表情に戻ったギアスが、そっと窓を閉めた。

「俺たちの声が聞かれたら困る」

 その言葉を聞いて確信する。

(やはり、スパイが近くにいるというのね……)

 あやうくおかしな婚約解消宣言をして、彼を困らせてしまうところだった。

(気を引き締めなきゃ……誰が聴いているかも分からないのよ……)

 自分の迂闊さを呪っていると、ギアスがしゃがみ込んで数枚の紙きれを拾った。
 そうして、立ち上がった彼が私を横抱きにすると、移動を始める。

「メイベル、俺に協力すると言ったな」

「ええ、もちろんです、ギアス。あなたが愛する人と幸せになるよう解放して……あなたを自由にしてさしあげます」

 気づけば、彼のベッドへと連れて行かれて、そっと壊れ物のように横にされた。

「あ……」

「だったら……」

 ギシリと音を立てて、彼がベッドの上に乗り上げてくると、私の上に馬乗りになる。
 なんだかやけに下腹に熱い何かが触れてくるけれど、なんだろうか。

「この書類に書いてある通りに振舞ってほしい、そうして俺を解放……いいや、自由にしてくれ、メイベル」

 書面に記載された内容を見て、今度は私が絶句したのだった。
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