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しおりを挟む「メイベル、ここまでだ」
「あ……」
彼の唇が離れた。
ここまで、とは……
キスが?
それとも、私の命が……?
そんなことを考えていると……
「きゃっ……!」
冷たい机から引きはがされ、私は彼に横抱きにされる。
「このままだと他の奴らに聞かれてしまう」
彼が私を殺す音を聞かれてしまうということなのか!?
(この人を世紀の虐殺犯にするわけにはいかない……!)
咄嗟にじたばたと暴れた。
「離してください! ギアス!」
「待て! 抱えている時に急に暴れるな! 危ないだろう!?」
「ここで貴方の手にかかって死ぬわけにはいかないのです!」
「は?」
「それに、今の貴方のほうが危ないですわ! えいっ……!」
昔ギアスに教わった護身術を使って身体を捻ると、彼の腕からすり抜けた。
「待て、行くな、メイベル!! お前は何か誤解している!」
「いいえ、ダメです! 誤解なんかじゃありません!」
暗殺者のような構えをとった彼が私を捕縛しようと迫ってくる。
だけど私は、私に向かって突き出される腕をひょいひょいと子猿のように左右に交わしながら、どうにか状況を打破しようと記憶を辿る。
(拾った文書には、彼が私に婚約破棄を告げる場面までしか書いていなかった)
だが、機密文書や暗殺計画だったとして、わざわざ本人たちの実名を記したりするだろうか?
思慮深いギアスのことだ。そんな迂闊な真似はしないと、ハタと気づく。
もしかすると、自分たちの名前に擬態した暗号文だった可能性が脳裏に浮かぶ。
(だとすれば、なんのための暗号文だというの……?)
「メイベル! いいから話を聞け!」
「嫌ですわ」
返事はせずに、掴みかかってこようとするギアスの動きをしゃがんで躱した。
「どうしてお前はいつも俺の方を見ようとしないんだ!」
「それは貴方の方が……きゃっ……!」
飛びあがってギアスに頭突きをしようと身体を捩じったところ、執務机にぶつかってしまい、置いてあった書類がバサバサと床に落ちてしまった。
「あ! ごめんなさい! 崩すつもりでは……!」
そのまま、前のめりになって態勢を崩してしまう。
だが、衝撃は訪れなかった。
なぜなら、ギアスが私のことを抱き寄せて助けてくれたから。
「どうして、お前は昔から……物静かだと思ったら、急に暴れまわったりするんだ」
「ギアス……」
見つめられると、先ほどの口づけを思い出してしまい、身体が自然に火照っていく。
書類がヒラヒラと宙に舞う。
その時――
目の前に降ってきた紙を反射で手にしてしまった。
「こちらは……」
「待て、メイベル、見るな!!」
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