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 勝手に書類を見てしまったのは、よくなかった。
 ちょうど、近くに彼の書斎机があって、書類の束が見える。

(わざわざ彼を糾弾して追い詰めるつもりはありません。)

 机の上の書類の束の前へと向かう。
 高く積み上げられた書類を見て、私は嘆息する。

(きっと婚約を破棄するための手順が書かれたものなのでしょうね)

 そうして、懐に忍ばせていた紙を取り出し、束に返そうとしていると――

「何をしている! その書類はダメだ!」

「きゃっ……!」

 今しがた風に当たってくると言っていたはずの彼が戻ってきて、勢いよく書類を奪われてしまった。

「まさか、これを見たのか!?」

 先ほどまでとは違ってものすごい剣幕で驚いて足がすくむ。

「ごめんなさい、のぞき見するつもりはなくて……」

「一枚目がないと思っていたら、メイベル、まさかお前が持っていたなんて……見たのか?」

 見ていないと言えば嘘になってしまう。
 覚悟を決めて、コクリと頷く。
 すると、何かに耐え忍ぶかのように瞼を閉じていたギアスだったが、瞼を持ち上げると、まっすぐに、こちらを見てくる。

「だったら俺も覚悟を決めよう」

「え?」

 婚約破棄のことだろうか――?

 そんな風に考えることが出来たのは、一瞬だった。

「きゃっ……!」

 今まで手さえ繋いでこなかったギアスが私の腰に手を回して、抱き寄せてきた。
 身体が密着して、衣服越しに相手の熱が伝わってきて落ち着かない。

「あれを見られたからには、このままお前を部屋から帰すわけにはいかない」

「何を……言って……」

 そこでハッとなる。
 まさか、国家機密に当たる文書か何かだったというのだろうか――?
 ギアスの表情はこれまでに見たことがないぐらいに険しいものであり、そうなのだと直感的に理解する。

「待ってください、ギアス、私は本当に何も見ていなくて……んんっ……!」

 相手が何を言っているのか全然分からないまま、私はギアスに唇を奪われ、執務机の上に押し倒されてしまったのだった。



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