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 こうして話は現在に至る。

(大丈夫。自分の気持ちを偽って何かを演じるのには慣れています)

 ぐっと拳に力を入れた私は、真剣な眼差しを彼に向ける。

「ギアス、私との婚約を解消してほしいのです」

「なん、だと……?」

 ギアスが先ほどまで瞑っていた瞳をカッと見開いたので、私の身体がビクリと跳ね上がった。
 しばらくドキドキと動悸がして落ち着かない。
 正直、彼に向かって婚約解消を告げるのだって緊張したのだ。
 けれども、彼にとって自分にとって傷が浅いように済ませた方が絶対に良いに違いない。
 ゴクリと唾を飲み込んで、相手の動きを待つ。
 だが、いつまで経っても肝心のギアスからの反応がない。
 というか、気づけば彼はまた再び瞼を閉じているのではないか。

「ギアス? 聞いているのですか?」

 やはり私に興味がないのだろう。
 というよりも、自分から婚約破棄宣言するつもりだったのに、作戦が崩れたと思って立て直しているのだろうか。
 ズキンと痛む胸を押さえながら相手の反応を待つ。
 すると、ギアスがゆらりと立ち上がる。サラリとした前髪をかきあげた後、一言だけこう告げた。

「すまない、メイベル、風を浴びてくる」

「待ってください、逃げるおつもりですか、ギアス!」

 だが、彼は私の言葉を無視して、バルコニーへと向かう。
 ガラリと扉を開けて、彼は欄干にもたれて黄昏はじめた。
 こんな緊迫した場でさえ、私に返事をするよりも外に出て風に当たった方が良いと判断したようだ。

(やはり、ギアスにとって私はただの幼馴染……いいえ、それどころか、どうでも良い存在なのですね……)

「婚約解消だなんてやめてくれ。俺は君のことを愛しているんだ!」

 心のどこかで、そんな台詞を期待してしまっていた自分を恥じた。
 苦しみに耐えるべく、私は胸の前でぎゅっと拳を握る。
 カサリ。
 その時、先日拾った紙を懐に入れたままなことを思い出した。

(本当はこの紙を見たと本人に突き付けるつもりでしたが……)

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