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しおりを挟む三歳年上の幼馴染のギアスは、数年間王都を離れて、辺境で隣国の防衛に当たっていた。その際に数多くの武勲を立ててから王都に戻ってきたギアスが望んだのは、第一王女である私メイベル・オーギュストとの結婚だったのだ。
(小さい頃に私の世話や護衛をしてくれていた優しいギアス)
幼少期の懐かしい思い出が胸を躍らせる。
元々口数の少ない少年だったけれど、おかしな貴族たちに妾の子どもだと蔑まれれば間に入ってくれて、義妹たちに虐められていたら庇ってくれた。
転んだ時にはおんぶをしたり、なかなか外に出れない私に市井のことを教えてくれたりした。
とにかく本を読むのが好きだった私に対して、ギアスは色んな物語を即興で考えては面白おかしく話してくれて、唯一彼がお喋りになる場面だったなと思い出したら、胸がぽかぽかして温かくなってくる。
(まさか両想いだったなんて……)
そんな風に歓喜して、大人になった私は、くすんだ金の髪を綺麗に梳かして……真ん丸の碧い瞳のせいか、実年齢よりも幼く見えるのがコンプレックスだけれど、どうにか綺麗な淑女に見えるように化粧の工夫をしたりした。
けれど……
再会した彼は、月日のせいなのか、はたまた騎士団長になったからか、戦争に出たのが原因か、子どもの時以上に仏頂面で無口になっていたのだ。
とにかく感情が読めない。
いつも眉間に皺を寄せたりして不愛想。
婚約してから、しばらくは軽い挨拶を交わすだけの日々が続いた。
(このままではマズい)
そう思って、休日に互いの部屋を訪れることを提案したものの、シンとした空間で二人で茶を飲んでサヨナラするだけ。
相手の気持ちがさっぱり分からないまま、数か月の時が経ち、婚約披露パーティの日取りも、いよいよ残り一か月に差し迫っていた。
(婚約披露パーティが近くなれば、もっと会話が増える。そう思っていたのに……)
今現在、ギアスの部屋を訪問して、紅茶を一緒に飲んでいるのだけど、ギアスは私に対して全く微笑みかけてこないどころか、返事もしてくれない。
猫脚の丸テーブルを挟んで反対側に座るギアスは、険しい表情というよりも渋い顔を浮かべたまま甘い紅茶を啜っていた。武骨な印象の強い軍服を纏っているが、元々侯爵家出身なのでティーカップを持つ所作は優雅だ。
というよりも、瞼を固くつむっているのが気になる。
そんな姿も絵になるが、それにしたって茶の途中で瞑想でも始めたのか?
「あのう、ギアス、話があるのですが」
「メイベル、婚約披露パーティについては、お前のやりたいようにやれば良い」
ギアスは、うららかな春の日差しを受けつつ、目を閉じたまま、そう返してきた。
寡黙な彼の周りを、窓の外から現れた小鳥が飛んでいるのが対照的だ。
(これまでは、そのやりたいようにのところを一緒に詰めたかったのですが……)
だが、今日は婚約披露パーティの内容についてギアスと相談したいのではない。
(先日、私は見てしまった)
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