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6 求めた光の先へ
70 アイザック
しおりを挟む明け方。
「ミリー、久しぶりで嬉しくて、抱きつぶしてしまって悪かった……」
眠りに就いたミリーの黒髪を撫でる。
小動物のように愛らしく理知的な顔立ち。
しなやかな肢体に女性らしい滑らかな曲線を描く裸体。
健康的な肌と感度の高い体。
そんな愛しい女性に触れながら、アイザックは思考に耽っていた。
(俺が騎士を目指した契機となった出来事が、僻地における魔獣襲撃事件の際の出来事だった……)
マリーンが暴走した日、川に流されかけたミリーを救った日――。
彼の日の出来事が脳裏に閃いたのだ。
(ああ、まだ力のない俺が、なんとか引き止めることができた少女が――ミリーだったのか……)
もしかしたらとは薄々思っていたが――そんな偶然がこの世にあるわけがないと思って、深くは考えないでいたけれど、あの日確信を得たのだった。
母代わりに慕っていた乳母と、彼女の息子――アイザックにとっては幼馴染であり親友だった少年――の二人が亡くなった事件でもある。
貴族のお坊ちゃんとして育てられていた自分が、騎士となって誰かを救いたいと誓った出来事だ。
彼らを救うことが出来なかった時、自分の力の不甲斐なさを悟り、そうして――彼女の母を助けられるような力を手にしたい――彼女の笑顔を守れるような騎士になれたらと――幼い自分の心に炎が灯ったのだ。
「あの少女が――自分の心を支えてくれていた少女が君だったんだ……」
ミリーを迎えに行く際、元妻マリーンへの対応も課題だった。
だけれど――。
それ以上に、ミリーに相応しい男になってから迎えにいかないと、自分自身の騎士道にも反しそうだと思ったのだ。
「本当は早く君を迎えに行きたかった……」
すやすやと眠るミリーの黒髪を、アイザックは慈愛に満ちた手つきで撫でる。
「君に嘘をついた分――そうして、待たせた分、絶対に幸せにすると誓う……」
決意したアイザックは腕の中で眠るミリーの唇にそっと口づけを落とした。
そうして、彼女の薬指に何かを施す。
彼は、愛しい女性を再び手にできた幸せを噛みしめる。
明け方の太陽が二人を照らす。
「ミリー、愛している……君が俺の帰る場所だ……これから先ずっと……」
彼女の左手の薬指には――誓いの指輪がキラキラと輝いているのだった。
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アイザック、団員の前で赴任の挨拶より、自分の言い訳が先なのか?そういう話は、もっと、団員と打ち解けてからするべきだと思う。
nicoさん、アイザックとマリーンについては、ミリーの気持ちもあるので、ごにょごにょ暈しております……
マリーンとバッシュが人騒がせバカップルです……
ご感想たくさんありがとうございます(*'ω'*)
マリーンを庇ったのはミリーの……
エステルさん、ご感想ありがとうございます。