【R18】あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。

おうぎまちこ(あきたこまち)

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5 4人の邂逅

55 マリーン

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 川の水の中へと落ちる前。

「あの子のお母さんは貴女しかいない!!! マリーンさん!!」

 愛しい青年騎士以外に、彼の幼馴染の声が耳に届いた。
 成長して、彼女は母によく似たのだろう。
 正義感の強いミリーさん。
 気づけば、彼女に抱き寄せられて――。

 落下していくマリーンの瞳からは涙が天に向かって流れていく。

「あなたから大事なお母さまを奪ってごめんなさい……私が幸せになっちゃダメだって……」

「ミリー……さん」

 相手がどんな顔をしているかまでは見る余裕がなかった。
 だけど、抱き寄せられ、思い出したのは――。

 過去、魔物に襲われた時に自分を庇ってくれた黒髪の女性の姿。
 即死ではなかったから、彼女はもしかすると娘とわたしを間違ったのかもしれない。
彼女は幼いわたしにこう話してきた。

『どうか生きながらえて、あなたも愛する人の子どもを産んで……どうか愛してあげて……ずっと仕事ばかりであなたと過ごす時間は短かったけれど……例え我が子と一緒に過ごす時間が短かったのだとしても、後悔がないように、せいいっぱいの愛を与えて、誰よりも愛してあげて……これから先の未来とあなたと、まだ見ぬ赤ん坊のために……』

 ――私はそんな約束も忘れて……。

 子どもと向き合うことも忘れ――。

 自分のことで精いっぱいで……。

「わたしの……」


 脳裏に浮かんだのは――最愛の彼と――。


「わたしの……赤ちゃん……!」


 水面に叩きつけられながら――。

 命がけで産んだ子どもの――小さな小さな指が、私の人差し指を握ってきた時の胸を熱くさせた時のことを思いだしたのだった。


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